ゼロトラストはファイアウォールやVPNを完全に置き換えるものではない
従来のVPNは、一度接続すれば内部ネットワークに広くアクセスできるという仕組みでした。ゼロトラスト環境では、VPN接続(今も使われている場合)は単なる身元確認の材料の1つに過ぎず、その先にある各資源には依然として個別の検証が必要です。ファイアウォールも引き続き重要な要素であり、ゼロトラストはネットワークレベルの制御を取り除くのではなく、その上にID・文脈ベースの検証層を重ねるものです。
業務を止めずに段階的に導入する
ゼロトラストはID管理システム、デバイス管理、ネットワーク分割のすべてに同時に関わるため、多くの組織は一気に切り替えるのではなく、財務データやソースコードなど価値の高いシステムから段階的に導入し、そこから範囲を広げていきます。より厳格で頻繁な検証は最初は余計な手間に感じられることがあるため、シングルサインオンやデバイス信頼ツールと組み合わせることで、ログインの壁のように感じさせない工夫が有効です。
現実的な進め方の例
一般的な手順は、まずユーザー、端末、アプリ、データの棚卸しをすることです。把握していないものは守れないからです。次に多要素認証でIDを強化し、共有アカウントや使われていないアカウントを整理します。そのうえで、重要なシステムには管理された最新の端末だけを許可し、ネットワーク全体への広いアクセスをアプリ単位のアクセスに置き換えます。最後に重要システムを分割し、詳細なログを取り、ポリシーを定期的に見直します。各段階がそれぞれリスクを下げるため、全面的な刷新を待つ必要はありません。
よくある失敗と限界
もっともよくある失敗は、ゼロトラストを買えば済む製品だと考えることです。この言葉は多くのベンダーが使っているため、製品が具体的にどんな制御を提供するかを確認してください。最新の認証に対応できない古いシステムは放置されがちで、補完的な対策やゲートウェイが必要になります。ポリシーが厳しすぎると、従業員が危険な回避策を使う原因にもなります。ゼロトラストはパッチ適用、バックアップ、教育、インシデント対応の必要性をなくすものではなく、意図的な攻撃者を単独で止められるわけでもありません。侵害の確率と影響を下げるものであって、安全を保証するものではありません。
よくある質問
ゼロトラストを導入すればVPNは不要になりますか?
完全に不要になるわけではありません。VPNが引き続き役割を果たすこともありますが、従来のVPNが接続後に内部ネットワークへ広くアクセスを許可していたのに対し、ゼロトラスト環境ではVPN接続後も各資源ごとに個別の検証が求められるのが一般的です。アプリ単位でアクセスを許可するZTNAというサービスに移行する組織も多くあります。
企業だけでなく個人もゼロトラストの考え方を取り入れられますか?
はい、小規模な形であれば可能です。多要素認証を使う、アプリやアカウントに必要最小限の権限だけを与える、使わなくなったアクセス権限を定期的に見直して取り消す——こうした習慣はいずれもゼロトラストの発想に基づくもので、個人のアカウントにも十分応用できます。端末を最新に保つことや、パスワード管理ツールで固有のパスワードを使うことも同じ発想です。
ゼロトラストは技術だけの話ですか?
いいえ。誰が何にアクセスできるべきか、役割が変わったときにどれだけ早く権限を外すか、新しい確認をどう従業員に伝えるかといった、ルールや運用、組織文化も含みます。技術は決定を実施しますが、決定そのものは人が行います。
導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
決まった期間はありません。大規模な組織では段階的に進める数年規模の取り組みになるのが一般的ですが、小規模な会社でも、MFAの有効化、アカウント整理、管理者権限の制限で数週間のうちに大きく前進できます。ゴールというより進む方向として考えるのが現実的です。
「多層防御」とはどう違いますか?
多層防御は、複数の対策を重ねて、一つが破られても侵害に至らないようにする考え方です。ゼロトラストはこれと両立し、ネットワーク上の位置に基づく暗黙の信頼をなくし、すべてのアクセス要求を確認することに重点を置きます。多くの組織は両方の考え方を併用しています。