シュワルツの基本的価値観理論、10の価値を解説

人によって、人生で何を優先するかは異なります。心理学者シャローム・シュワルツが多くの国で調査を重ねてまとめた10の基本的価値観と、その価値観同士の関係を、具体例を交えながら見ていきましょう。

自己主導

独立して考え、自ら目標を選び、探求しようとする価値観。創造性、自由、独立性、好奇心を重視する傾向と結びつき、後述の「変化への開放性」軸で最も代表的な価値観とされます。たとえば、決められた手順より自分で工夫して進めたい人や、転職や独立で自分の裁量を広げたい人は、この価値観を強く感じていることが多いでしょう。

刺激

人生における興奮、新奇性、挑戦を追求しようとする価値観。変化に富んだ人生、大胆さ、多様な経験を好む傾向と結びつき、自己主導とともに変化への開放性軸に属します。自己主導が「自分で決めたい」という方向だとすれば、刺激は「新しいことを味わいたい」という方向で、似ていても別の動機として区別されます。

快楽

自分自身のための楽しみと感覚的な満足を追求しようとする価値観。変化への開放性と自己高揚という2つの軸の境界にまたがる値として扱われ、楽しみを追求すると同時に自分自身の満足を優先するという点で両方の軸に関連します。おいしい食事や心地よい休息を大切にする姿勢が代表的な表れ方です。

達成

社会的基準に沿って有能さを示し、個人的な成功を得ようとする価値観。野心、有能さ、影響力のある成果を重視する傾向と結びつき、権力とともに「自己高揚」軸を成す代表的な価値観とされます。ここでいう達成は、他者や社会の物差しで評価される成功を指す点がポイントで、自分だけの納得を求める自己主導とは区別されます。

権力

社会的地位や威信、人や資源に対する統制力を追求しようとする価値観。権威、富、社会的な評価を重視する傾向と結びつき、達成とともに自己高揚軸の中核的な価値観とされます。必ずしも他人を支配したいという意味ではなく、資源や影響力を持って物事を動かせる立場を重視する姿勢も含まれます。

安全

社会、人間関係、自分自身の安全さと調和、安定を追求しようとする価値観。国家の安全保障、社会秩序、家族の安全を重視する傾向と結びつき、伝統・同調とともに「保守性」軸を成す価値観とされます。安定した収入や住まいを重視する姿勢や、リスクを避けて確実な選択をする傾向にも表れます。

同調

他者に害を与えたり社会的な期待に反したりしかねない行動、傾向、衝動を自制しようとする価値観。礼儀、自己抑制、規範の遵守を重視する傾向と結びつき、保守性軸の中核的な価値観とされます。周囲との摩擦を避け、場の空気や決まりごとを尊重する態度として日常的に現れます。

伝統

自分が属する文化や宗教が提供する慣習や思想を尊重し受け入れようとする価値観。謙虚さ、信仰、慣習の受容を重視する傾向と結びつき、同調と密接に関連しますが、従う対象が社会的な期待か、それとも古くからの慣習かという点で区別されます。年中行事や家の習わしを大切にする姿勢は、その身近な例です。

博愛

頻繁に接する身近な人々の幸福を維持し高めようとする価値観。誠実さ、忠実さ、責任感、友情を重視する傾向と結びつき、普遍主義とともに「自己超越」軸を成す価値観とされます。家族、友人、同僚など、顔の見える相手への思いやりが中心で、見知らぬ人々や自然全体に向かう普遍主義とは対象の広さで区別されます。

普遍主義

すべての人々と自然の幸福を理解し、感謝し、寛容に受け入れ、守ろうとする価値観。平等、社会正義、環境保護、広い心を重視する傾向と結びつき、自己超越軸の中核的な価値観とされます。自分とは異なる考え方や文化の人にも公平であろうとする姿勢や、環境問題への関心などに表れます。

10の価値を束ねる4つの上位グループ

10の価値は、変化への開放性(自己主導・刺激)、自己高揚(達成・権力)、保守性(安全・同調・伝統)、自己超越(博愛・普遍主義)という4つの上位グループにまとめて語られることがあります。快楽は変化への開放性と自己高揚の両方に近い位置にあるため、文献によって扱いが少し異なります。個別の価値で結果を読むのが細かすぎると感じたときは、まず4グループの傾向から見ると全体像をつかみやすくなります。

後に提案された19の価値への細分化

シュワルツらは2012年に、従来の10の価値をより細かく分けた「改訂版理論」を発表しました。この理論では19の価値が同じ円環の上に並べられ、後続の研究では49の文化集団を対象に、改訂版の質問紙で測定したときの価値の並び順が検証されています。ただし、一般向けの解説や多くのウェブ診断で使われているのは、依然として10の価値の枠組みです。

基本的価値観理論とは、それを整理する2つの軸

心理学者シャローム・シュワルツは、多くの文化圏の人々を対象にした大規模な調査をもとに、人間が普遍的に追求する動機は10の基本的価値観にまとめられると主張しました。重要なのは、この10の価値観が独立したリストではなく、一つの円環(circular)構造の上に配置されているという点です。円上で隣接する価値観は一緒に追求されやすく、円の反対側にある価値観は互いに衝突しやすいとされます。10の価値観はさらに、2つの大きな対立軸にもまとめられます。一つは「変化への開放性(自己主導、刺激)」と「保守性(安全、同調、伝統)」の対立、もう一つは「自己高揚(権力、達成)」と「自己超越(普遍主義、博愛)」の対立です。快楽の価値観は2つの軸の境界にまたがる値として扱われます。例えば、安全を非常に重視する人は、同時に刺激的な新しさを追求することが難しいというように、この構造は価値観同士の自然な緊張関係を示しています。

どのように測定され、文化を越えてどこまで通用するのか

シュワルツと同僚たちは、この理論を測定するためにシュワルツ価値観調査(Schwartz Value Survey)と人物価値観質問紙(Portrait Values Questionnaire)を開発しました。後者は「この人は新しいアイデアを思いつき、創造的であることが大切だと考えている」といった短い人物描写を読み、自分にどれだけ似ているかを答える形式です。これらの質問紙は、組織文化研究、世代間の価値観比較、異文化間の比較研究などで参考資料として広く活用されてきました。価値観の相対的な優先順位は文化圏によって異なることがありますが、10の価値観の構造そのものと円環的な配置関係は、多くの国で同様に再現されていると報告されており、これが異文化比較研究で信頼できる枠組みとして広く使われている大きな理由です。

結果の読み方と、よくある誤解

この理論を自分に当てはめるときに大切なのは、「順位」を見ることです。多くの人は10の価値のほとんどを「ある程度大切」と感じるため、点数の高低だけを見るよりも、自分の中でどの価値が相対的に上に来るかを見るほうが意味があります。研究では、回答傾向の個人差(全体に高めに答える人、低めに答える人)を取り除くために、全体の平均を基準に補正してから比較する方法がよく使われます。また、価値観は『性格タイプ』のような固定的なラベルではなく、ライフステージや環境によって優先順位が動くものとして扱われます。就職、結婚、子育て、転居などの出来事の前後で、安全や博愛の比重が変わることは珍しくありません。さらに、価値観はあくまで『何を大切にしたいか』であり、実際の行動と完全に一致するとは限りません。価値観どうしが衝突する場面、たとえば仕事での達成と家族への博愛が両立しにくいときに、どちらを選ぶかを自覚的に考える材料として使うのが、この枠組みの現実的な活用法です。なお、本ページは一般的な教育目的の解説であり、診断や心理的な助言に代わるものではありません。

よくある質問

一人の人がいくつもの価値観を同時に重要だと感じることはありますか?

はい。円上で隣接する価値観、例えば博愛と普遍主義、達成と権力のように近くに位置する価値観は、一緒に追求されることがよくあります。ただし、伝統と刺激のように円の正反対にある価値観を同時に強く追求することは難しいとされます。

この10の価値観は国や文化によって異なる現れ方をしますか?

価値観の相対的な優先順位は文化圏ごとに差がありえますが、10の価値観の構造自体と円環的な配置関係は多くの国で同様に再現されると報告されており、そのため異文化比較研究で信頼できる枠組みとして広く活用されてきました。

価値観は年齢や経験によって変わりますか?

優先順位は変わりうるとされています。一般に、人生の節目や環境の変化によって、安全や博愛の比重が高まったり、刺激や自己主導の比重が下がったりすることがあります。ただし、変化の大きさや方向には個人差があり、すべての人が同じ道筋をたどるわけではありません。

自分の価値観を知ると何の役に立ちますか?

進路や転職、人間関係の選択で迷ったときに、自分が何を優先したいのかを言葉にする助けになります。たとえば、収入面の安全と、自己主導を発揮できる環境のどちらを優先するかが整理できると、決断の理由が明確になります。ただし、結果は参考情報であり、正解を示すものではありません。

ウェブ上の簡易診断の結果は、研究用の質問紙と同じ精度ですか?

同じとは限りません。研究では、項目数が十分で、検証された質問紙を使い、回答傾向の補正まで行うのが一般的です。簡易診断は自己理解のきっかけとして楽しむ程度にとどめ、結果を絶対視しないのが安全です。