歴代ノーベル文学賞受賞者

1901年から2025年までの122人のノーベル文学賞受賞者を時代別にまとめました。各受賞者の選定理由、作家略歴、代表作品、作品のあらすじを紹介します。

1901〜1920年

📜

1901年 · シュリ・プリュドム(Sully Prudhomme)

フランス

選定理由

高い理想主義と芸術的完成度、そして感性と知性が稀有なかたちで結びついた詩的業績が評価され、第1回ノーベル文学賞を受賞しました。

作家略歴

工学を学んだのちパルナス派(高踏派)の詩運動に加わり、感情を抑制された形式の中に収める哲学的な抒情詩で名声を得ました。

代表作品

  • Stances et Poèmes
  • Le Vase brisé
  • La Justice
  • Le Bonheur

代表作紹介 — Le Vase brisé(壊れた花瓶)(代表作(ノーベル賞は詩作活動全体に対して授与))

小さなひびが入った花瓶がやがて静かに枯れていく姿を通して、表には見えなくとも心に残り続ける傷や愛のひび割れを淡々と歌った短い抒情詩です。

🕰️

1902年 · テオドール・モムゼン(Theodor Mommsen)

ドイツ

選定理由

歴史叙述の最も偉大な巨匠として、とりわけ代表作『ローマの歴史』を理由に受賞者に選ばれました。(選定理由に明記された作品:『ローマの歴史(Römische Geschichte)』)

作家略歴

ドイツの古典文献学者・歴史学者で、ローマ法とローマ史研究の基礎を築き、近代古代史学の父と呼ばれています。

代表作品

  • 『ローマの歴史』
  • Römisches Staatsrecht
  • Römisches Strafrecht

代表作紹介 — 『ローマの歴史』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ローマの建国から共和政末期のカエサルの時代までを、膨大な史料批判にもとづいて再構成した歴史書で、無味乾燥な年代記ではなく生き生きとした人物描写により一般読者にも広く読まれました。

🎭

1903年 · ビョルンスティエルネ・ビョルンソン(Bjørnstjerne Bjørnson)

ノルウェー

選定理由

新鮮な霊感と純粋な精神が際立つ、高貴で壮大な詩的業績が評価され受賞しました。

作家略歴

イプセンと並ぶノルウェー近代文学の代表的作家で、小説・戯曲・詩の全般で活躍し、ノルウェー国歌の作詞者としても知られています。

代表作品

  • En glad Gut
  • Over Ævne
  • Arne

代表作紹介 — Over Ævne(代表作)

農村の牧師が病床の妻を奇跡によって治そうと信仰の力を試す過程を描き、盲目的な信仰と人間の限界とのあいだの葛藤を扱った戯曲です。

📜

1904年 · フレデリック・ミストラル(Frédéric Mistral)

フランス

選定理由

故郷の自然と精神を忠実に映し出した清新で独創的な詩的業績と、プロヴァンス語の言語学者としての功績が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

南フランス・プロヴァンス地方の言葉であるオック語(プロヴァンス語)で作品を書いた詩人で、プロヴァンス語復興運動を率いました。

代表作品

  • 『ミレイユ』(Mirèio)
  • Calendau
  • Lis Isclo d'Or

代表作紹介 — 『ミレイユ』(代表作)

プロヴァンスの農村を舞台に、身分の違いのために結ばれることのない恋に落ちた二人の若者の悲劇を描いた長編叙事詩で、プロヴァンス語文学の代表作とされています。

🎭

1904年 · ホセ・エチェガライ(José Echegaray)

スペイン

選定理由

スペイン演劇の偉大な伝統を独創的な方法でよみがえらせた数多くの傑出した劇作品が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

もとは技術者・政治家でしたが遅れて劇作家に転じ、ロマン主義的な葛藤や道徳的ジレンマを扱った戯曲でスペイン演劇を復興させました。

代表作品

  • El gran Galeoto
  • O locura o santidad

代表作紹介 — El gran Galeoto(代表作)

根拠のないうわさが一組の夫婦を破滅へ追い込む過程を通して、世論や世間の評判という目に見えない暴力が個人の人生をいかに壊すかを描いた戯曲です。

📖

1905年 · ヘンリク・シェンキェヴィチ(Henryk Sienkiewicz)

ポーランド

選定理由

叙事作家としての卓越した業績が評価され受賞しました。

作家略歴

ポーランドが列強に分割占領されていた時代に活躍した小説家で、歴史小説を通じてポーランドの民族意識を鼓舞したと評価されています。

代表作品

  • 『クオ・ワディス』
  • Ogniem i mieczem
  • 『十字軍の騎士たち』(Krzyżacy)

代表作紹介 — 『クオ・ワディス』(代表作)

ネロ帝治下のローマで、ローマ貴族の青年とキリスト教徒の女性の恋を描きながら、初期キリスト教徒への迫害とローマ帝国の退廃ぶりを壮大なスケールで描写した歴史小説です。

📜

1906年 · ジョズエ・カルドゥッチ(Giosuè Carducci)

イタリア

選定理由

深い学識と批評的研究にとどまらず、その詩的傑作が持つ創造的エネルギー、清新な文体、抒情的な力への賛辞として受賞しました。

作家略歴

イタリア統一後の近代イタリア詩を代表する詩人で、ボローニャ大学の教授として古典の韻律をよみがえらせた詩で名声を得ました。

代表作品

  • Odi barbare
  • Levia Gravia

代表作紹介 — Odi barbare(代表作)

古代ギリシャ・ローマの韻律形式を近代イタリア語で再現し、自然や歴史、祖国への激しい感情を古典的な形式の中に込めた詩集です。

📖

1907年 · ラドヤード・キプリング(Rudyard Kipling)

イギリス

選定理由

観察力と想像力の独創性、思想の力強い活力、そして卓越した語り手としての才能が評価され、当時の最年少で受賞しました。

作家略歴

英領インドのボンベイで生まれ育ち、インドを舞台にした小説や詩によって大英帝国全盛期に大衆的な人気を得ました。

代表作品

  • 『ジャングル・ブック』
  • 『少年キム』
  • If—

代表作紹介 — 『ジャングル・ブック』(代表作)

インドのジャングルでオオカミの群れに育てられた少年モーグリが、クマのバルーやヒョウのバギーラなど動物の仲間とともにジャングルの掟を学びながら成長していく物語を収めた連作童話集です。

📚

1908年 · ルドルフ・クリストフ・オイケン(Rudolf Christoph Eucken)

ドイツ

選定理由

真理への真剣な探究、思索の洞察力、広い視野、そして理想主義的な人生哲学を擁護・発展させた著作の温かさと力が評価され受賞しました。

作家略歴

イェーナ大学の哲学教授で、物質主義に対抗して人間精神の能動的な働きを重視する「活動主義(精神主義)」の哲学体系を提示しました。

代表作品

  • Der Sinn und Wert des Lebens
  • Die Lebensanschauungen der großen Denker

代表作紹介 — Der Sinn und Wert des Lebens(代表作)

物質的な成功ばかりを追う近代文明の中で、人間が精神的価値を通じていかに人生の意味を取り戻せるかを哲学的に探究した著作です。

📖

1909年 · セルマ・ラーゲルレーヴ(Selma Lagerlöf)

スウェーデン

選定理由

作品全体に表れる高貴な理想主義、生き生きとした想像力、精神的な洞察力が評価され、女性として初めてノーベル文学賞を受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの田舎の教師出身の小説家で、スウェーデンの民話や伝説を文学へと昇華させた作品により、スウェーデン・アカデミー初の女性会員となりました。

代表作品

  • 『ニルスのふしぎな旅』
  • 『イエスタ・ベルリング物語』

代表作紹介 — 『ニルスのふしぎな旅』(代表作)

いたずら好きの少年ニルスが妖精の魔法で小さくされたあと、ガンの群れについてスウェーデン全土を飛び回る冒険の中で成長していく物語で、もともとは地理の教科書として企画されました。

📖

1910年 · パウル・フォン・ハイゼ(Paul von Heyse)

ドイツ

選定理由

抒情詩人・劇作家・小説家、そして世界的に名高い短編作家として、長い創作活動を通じて示した円熟した芸術性が評価され受賞しました。

作家略歴

ミュンヘンを拠点に活躍したドイツの詩人・小説家で、緻密に練り上げられた短編小説(ノヴェレ)を数多く発表し、当時のドイツで大きな人気を博しました。

代表作品

  • 『片意地娘』(L'Arrabbiata)
  • Kinder der Welt

代表作紹介 — 『片意地娘』(代表作)

イタリアの漁村を舞台に、気性の激しい娘と青年船頭とのあいだの誤解と和解を、短く凝縮された構成で描いた短編小説です。

🎭

1911年 · モーリス・メーテルリンク(Maurice Maeterlinck)

ベルギー

選定理由

豊かな想像力と詩的感性が際立つ多面的な文学活動、とりわけ童話的な形式の中に深い霊感を込め、読者の感情を神秘的に揺り動かす戯曲が評価され受賞しました。

作家略歴

ベルギー出身のフランス語作家で、写実的な台詞の代わりに沈黙と暗示によって人間の内面の不安を表現する象徴主義演劇を切り開きました。

代表作品

  • 『青い鳥』
  • 『ペレアスとメリザンド』

代表作紹介 — 『青い鳥』(代表作)

貧しい木こりの兄妹が幸福の象徴である青い鳥を探して、思い出の国や夜の御殿などさまざまな幻想の世界を旅しますが、青い鳥は結局家の中にいたと気づく童話劇です。

🎭

1912年 · ゲルハルト・ハウプトマン(Gerhart Hauptmann)

ドイツ

選定理由

劇芸術の領域で示した豊かで多彩かつ卓越した創作活動が評価され受賞しました。

作家略歴

ドイツ自然主義演劇を代表する劇作家で、労働者や貧困層の窮乏した現実を写実的に舞台化し、大きな反響を呼びました。

代表作品

  • 『織工』(Die Weber)
  • 『日の出前』

代表作紹介 — 『織工』(代表作)

19世紀シュレージエン地方の織物労働者が劣悪な賃金と労働条件に抗して蜂起した実際の事件を劇化した作品で、特定の主人公を置かず労働者の集団そのものを主人公に据えたことが特徴です。

📜

1913年 · ラビンドラナート・タゴール(Rabindranath Tagore)

インド

選定理由

深い感受性と清新さ、美しさに満ちた詩によって、自ら英語に移した詩的思索を西洋文学の一部とした功績が評価され、ヨーロッパ以外から初めて受賞しました。

作家略歴

ベンガル地方の詩人・思想家・画家で、自らのベンガル語の詩を英語に翻訳して西洋に紹介し、インドとバングラデシュ両国の国歌を作詞しました。

代表作品

  • 『ギーターンジャリ』
  • 『ゴーラ』
  • 『新月』

代表作紹介 — 『ギーターンジャリ』(代表作)

神と人間、自然への献身と愛を込めた103篇の短い散文詩集で、素朴でありながら深い霊性をたたえた表現により、西洋の読者にインドの精神を強く印象づけました。

📖

1915年 · ロマン・ロラン(Romain Rolland)

フランス

選定理由

文学的業績に込められた高貴な理想主義と、多様な人間像を描く中で示された真実への共感と愛が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの小説家・劇作家・音楽評論家で、第一次世界大戦中には反戦平和主義を唱え、国際的な論争と尊敬を同時に集めました。

代表作品

  • 『ジャン・クリストフ』
  • 『ベートーヴェンの生涯』

代表作紹介 — 『ジャン・クリストフ』(代表作)

ベートーヴェンをモデルとしたドイツの音楽家ジャン・クリストフが、幼少期から晩年まで芸術的理想と挫折、友情と愛を経験しながら成長していく過程を描いた大河小説です。

📜

1916年 · ヴェルネル・フォン・ヘイデンスタム(Verner von Heidenstam)

スウェーデン

選定理由

スウェーデン文学の新しい時代を導いた代表的人物としての意義が評価され受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの詩人・小説家で、当時支配的だった自然主義文学に反発し、ロマン的な想像力と愛国的な情感をよみがえらせる文学運動を率いました。

代表作品

  • Karolinerna
  • Vallfart och vandringsår

代表作紹介 — Karolinerna(代表作)

スウェーデン王カール12世と、王に従ってロシア遠征に加わった兵士たちの栄光と没落を、複数の人物の視点で織り上げた連作歴史小説です。

📖

1917年 · カール・ギェレルプ(Karl Adolph Gjellerup)

デンマーク

選定理由

高貴な理想に着想を得た、多彩で豊かな詩的業績が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

デンマーク出身で、のちにドイツで活動した作家です。仏教とインド哲学に傾倒し、それを西洋的な物語形式に溶け込ませた作品を数多く残しました。

代表作品

  • Der Pilger Kamanita
  • Minna

代表作紹介 — Der Pilger Kamanita(代表作)

前世からの因縁で結ばれた商人カーマニタと女性ヴァーシッティが、いくつもの生を経たのち、ついにブッダの教えの中で再会するという内容で、仏教の輪廻思想を西洋の小説形式で描き出した作品です。

📖

1917年 · ヘンリク・ポントピダン(Henrik Pontoppidan)

デンマーク

選定理由

同時代のデンマークの生活を率直に描き出した功績が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

デンマークの写実主義小説家で、牧師の家系の出身らしく、宗教と社会改革、個人の理想が現実とぶつかる問題を好んで扱いました。

代表作品

  • Lykke-Per
  • Det forjættede Land

代表作紹介 — Lykke-Per(代表作)

牧師の息子ペーアが故郷の宗教的な束縛から抜け出し、技術者として大きな野望を抱きますが、成功と失敗を繰り返した末に、世俗的な成功ではなく内面の平安を見いだしていく成長小説です。

📜

1919年 · カール・シュピッテラー(Carl Spitteler)

スイス

選定理由

代表的な叙事詩『オリュンポスの春』を特に高く評価して受賞が決まりました。(選定理由に明記された作品:『オリュンポスの春(Olympischer Frühling)』)

作家略歴

スイスのドイツ語圏の詩人で、ギリシャ神話の題材を借りつつ、独創的な神話的世界観を込めた長大な叙事詩を創作しました。

代表作品

  • 『オリュンポスの春』
  • Prometheus und Epimetheus

代表作紹介 — 『オリュンポスの春』(受賞時の選定理由に明記された作品)

オリュンポスの神々が世界を治めるために登場する過程を、ギリシャ神話を素材に独自に再構成した大叙事詩で、壮大な想像力と荘重な韻律が評価されています。

📖

1920年 · クヌート・ハムスン(Knut Hamsun)

ノルウェー

選定理由

代表作『土の恵み』を理由に、その記念碑的な作品世界が評価され受賞しました。(選定理由に明記された作品:『土の恵み(Markens Grøde)』)

作家略歴

ノルウェーの小説家で、人間心理の非合理な衝動に迫った『飢え』により近代心理小説の先駆者と評価されていますが、のちにナチス・ドイツに協力したことで論争を残しました。

代表作品

  • 『土の恵み』
  • 『飢え』
  • 『牧神』(Pan)

代表作紹介 — 『土の恵み』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ノルウェーの荒野にひとりで分け入り、素手で農場を切り開いていく農夫イサクの生涯を通して、文明の便利さと対比される、自然と労働に根ざした生き方の価値を描いた大河小説です。

1921〜1940年

📖

1921年 · アナトール・フランス(Anatole France)

フランス

選定理由

気品ある文体、深い人間的共感、優雅さ、そして真にフランス的な気質を特徴とする輝かしい文学的業績が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの小説家・批評家で、アイロニーと懐疑主義に満ちた文体により、同時代の社会や宗教、政治を辛辣に風刺しました。

代表作品

  • 『神々は渇く』
  • 『ペンギンの島』
  • 『シルヴェストル・ボナールの罪』

代表作紹介 — 『神々は渇く』(代表作)

フランス革命期、穏健だった青年画家が革命の理念に狂信的にのめり込み、ついには処刑を率先して決める冷酷な陪審員になっていく過程を通して、革命の理想と狂気をあわせて描いた小説です。

🎭

1922年 · ハシント・ベナベンテ(Jacinto Benavente)

スペイン

選定理由

スペイン演劇のすぐれた伝統を受け継いだそのあり方が評価され受賞しました。

作家略歴

スペインの劇作家で、上流社会の偽善を風刺と会話中心の洗練された戯曲で描き、20世紀初頭のスペイン演劇を代表しました。

代表作品

  • Los intereses creados
  • La malquerida

代表作紹介 — Los intereses creados(代表作)

イタリアの即興仮面劇(コメディア・デラルテ)の登場人物を借りて、損得勘定で動く二人の詐欺師が最終的に真実の愛を見いだしていく過程を機知に富んだ筆致で描いた風刺劇です。

📜

1923年 · ウィリアム・バトラー・イェイツ(William Butler Yeats)

アイルランド

選定理由

高度に芸術的な形式の中に一つの民族全体の精神を表現した、常に霊感に満ちた詩が評価され受賞しました。

作家略歴

アイルランド文芸復興運動を率いた詩人・劇作家で、ケルト神話とアイルランド民族主義、神秘主義を結びつけた詩により、20世紀英語圏最高の詩人の一人に数えられます。

代表作品

  • 『イニスフリーの湖島』
  • 『再臨』
  • 『塔』

代表作紹介 — 『再臨』(代表作)

「すべてがばらばらになる」という一節で知られる詩で、第一次世界大戦後に崩壊した世界秩序と、新たな野蛮な時代の到来に対する終末論的な予感を込めた作品です。

📖

1924年 · ヴワディスワフ・レイモント(Władysław Reymont)

ポーランド

選定理由

偉大な民族叙事詩『農民』を理由に受賞者に選ばれました。(選定理由に明記された作品:『農民(Chłopi)』)

作家略歴

ポーランドの小説家で、自然主義的な筆致によりポーランド農村共同体の四季と人間模様を写実的に描き出しました。

代表作品

  • 『農民』
  • 『約束の土地』

代表作紹介 — 『農民』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ポーランドのある農村を春・夏・秋・冬の四季に分け、裕福な老農夫と若い後妻とのあいだの愛憎、土地をめぐる争い、共同体の慣習をパノラマのように描いた大河小説です。

🎭

1925年 · ジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw)

アイルランド/イギリス

選定理由

理想主義と人間愛がともに息づきながら、しばしば独特の詩的な美しさを伴う刺激的な風刺を特徴とする作品世界が評価され受賞しました。

作家略歴

アイルランド出身でイギリスで活躍した劇作家・評論家で、鋭い機知と社会批判を込めた戯曲により20世紀英語圏の演劇に大きな影響を与えました。

代表作品

  • 『ピグマリオン』
  • 『人と超人』
  • 『聖女ジョウン』

代表作紹介 — 『ピグマリオン』(代表作)

音声学者ヒギンズ教授がロンドンの下町の花売り娘イライザに上流階級の話し方を教え、淑女に変身させる賭けをする中で、階級と言葉、自己同一性の問題を風刺した戯曲です。

📖

1926年 · グラツィア・デレッダ(Grazia Deledda)

イタリア

選定理由

故郷サルデーニャ島の暮らしを生き生きと明晰に描きつつ、深さと共感をもって人間の普遍的な問題を扱った理想主義的な著作が評価され受賞しました。

作家略歴

イタリア・サルデーニャ島出身の小説家で、正規の教育をほとんど受けずに独学で故郷の慣習と情念を描いた小説を書き、女性として2人目のノーベル文学賞受賞者となりました。

代表作品

  • Canne al vento
  • Cenere

代表作紹介 — Canne al vento(代表作)

没落した貴族の家の三姉妹と老いた下男がサルデーニャの農村で守り続ける誇りと罪の意識、運命への従順を通して、島特有の情感を描いた小説です。

📚

1927年 · アンリ・ベルクソン(Henri Bergson)

フランス

選定理由

豊かで生命力にあふれた思想と、それを提示するうえで示された卓越した技巧が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの哲学者で、時間と生命を機械的な因果ではなく「持続(durée)」という概念で説明し、20世紀初頭の哲学と文学に大きな影響を与えました。

代表作品

  • 『創造的進化』
  • 『物質と記憶』
  • 『笑い』

代表作紹介 — 『創造的進化』(代表作)

生命の進化を機械的な法則ではなく「エラン・ヴィタール(生の躍動)」という創造的な衝動によって説明し、ダーウィン流の決定論とは異なる生命哲学を示した著作です。

📖

1928年 · シグリ・ウンセット(Sigrid Undset)

ノルウェー

選定理由

中世北欧の人々の暮らしを描いた力強い描写を中心に評価され受賞しました。

作家略歴

ノルウェーの小説家で、中世スカンディナヴィアを舞台とした長大な歴史小説を通して、女性の生と信仰、欲望の問題を深く掘り下げました。

代表作品

  • Kristin Lavransdatter
  • Olav Audunssøn

代表作紹介 — Kristin Lavransdatter(代表作)

中世ノルウェーの女性クリスティンが、父の決めた縁談を振り切って愛を選んだのち、結婚と信仰、罪の意識のあいだで生涯にわたって味わう葛藤を三部作で描いた大河小説です。

📖

1929年 · トーマス・マン(Thomas Mann)

ドイツ

選定理由

主として、現代文学の古典としてますます広く認められてきた偉大な小説『ブッデンブローク家の人々』を理由に受賞者に選ばれました。(選定理由に明記された作品:『ブッデンブローク家の人々(Buddenbrooks)』)

作家略歴

ドイツの小説家で、芸術家と市民社会の葛藤、個人の病と精神を通した時代診断を好んで扱い、のちにナチスを逃れてアメリカへ亡命しました。

代表作品

  • 『ブッデンブローク家の人々』
  • 『魔の山』
  • 『ヴェニスに死す』

代表作紹介 — 『ブッデンブローク家の人々』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ドイツ・リューベックの裕福な商家ブッデンブローク家が4代にわたって富と地位を築き、やがて少しずつ没落していく過程を描き、物質的繁栄と芸術的・精神的感受性との緊張を扱った大河小説です。

📖

1930年 · シンクレア・ルイス(Sinclair Lewis)

アメリカ

選定理由

生き生きとした力強い描写の技法と、機知とユーモアを駆使して新しい人間像を創造する能力が評価され、アメリカ人として初めて受賞しました。

作家略歴

アメリカの小説家で、中西部の小都市の俗物根性と画一主義を風刺した小説により、大恐慌直前のアメリカ社会を痛烈に批判しました。

代表作品

  • 『本町通り』
  • 『バビット』
  • Arrowsmith

代表作紹介 — 『バビット』(代表作)

中西部の小都市で成功した不動産業者バビットが、表向きは安定した中産階級の生活を送りながらも、画一的な社会慣習と俗物根性の中で感じる空虚さと逸脱への誘惑を描いた風刺小説です。

📜

1931年 · エリック・アクセル・カールフェルト(Erik Axel Karlfeldt)

スウェーデン

選定理由

スウェーデン・アカデミーの終身書記在任中に亡くなったのち、生前の詩的業績をたたえて死後に授与されました。

作家略歴

スウェーデンの詩人で、スウェーデン・アカデミーの終身書記を務めながら、郷土色豊かな農民の暮らしや季節、民俗を歌った抒情詩で愛されました。

代表作品

  • Fridolins visor
  • Fridolins lustgård

代表作紹介 — Fridolins visor(代表作)

架空の人物フリドリンを語り手に立て、スウェーデン・ダーラナ地方の農村風景や年中行事、素朴な恋を民謡風の韻律で歌った詩集です。

📖

1932年 · ジョン・ゴールズワージー(John Galsworthy)

イギリス

選定理由

すぐれた物語叙述の技法が評価され、とりわけ代表作『フォーサイト家物語』でその頂点に達したとして受賞しました。(選定理由に明記された作品:『フォーサイト家物語(The Forsyte Saga)』)

作家略歴

イギリスの小説家・劇作家で、自らが属していた上流ブルジョワ階級の所有欲と偽善を内側から批判的に描きました。

代表作品

  • 『フォーサイト家物語』
  • Justice

代表作紹介 — 『フォーサイト家物語』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ヴィクトリア朝イギリスの裕福な中産階級フォーサイト家の3代にわたる物語で、財産と所有欲に執着するソームズ・フォーサイトと妻アイリーンの不幸な結婚生活を中心に、階級の変化を描いた連作小説です。

📖

1933年 · イワン・ブーニン(Ivan Bunin)

ロシア(無国籍の亡命者)

選定理由

散文創作においてロシアの古典的伝統を受け継いだ厳格な芸術性が評価され、ロシア出身の作家として初めて受賞しました。

作家略歴

ロシア革命後にフランス・パリへ亡命した小説家・詩人で、消えゆく帝政ロシアの貴族社会と農村の情感を精緻な文体で形象化しました。

代表作品

  • 『アルセーニエフの生涯』
  • 『村』
  • 『暗い並木道』

代表作紹介 — 『アルセーニエフの生涯』(代表作)

作家自身を投影した人物アルセーニエフの幼年期から青年期までを回想し、失われたロシアの田舎貴族文化への濃い郷愁と、芸術家としての自我の形成を描いた自伝的小説です。

🎭

1934年 · ルイジ・ピランデッロ(Luigi Pirandello)

イタリア

選定理由

劇芸術と舞台芸術における大胆で独創的な革新が評価され受賞しました。

作家略歴

イタリアの劇作家・小説家で、人間のアイデンティティは状況に応じて複数の仮面に分かれるという問題意識を実験的な形式の戯曲で表現し、不条理劇に大きな影響を与えました。

代表作品

  • 『作者を探す六人の登場人物』
  • 『エンリコ四世』

代表作紹介 — 『作者を探す六人の登場人物』(代表作)

リハーサル中の劇団の前に、未完のまま捨てられた戯曲の登場人物6人が現れて自分たちの物語を完成させてほしいと迫ることで、虚構と現実の境界が崩れていく実験的なメタ演劇です。

🎭

1936年 · ユージン・オニール(Eugene O'Neill)

アメリカ

選定理由

独自の悲劇観を体現した、力強さと誠実さ、深い感情に満ちた劇作が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカ現代演劇を切り開いた劇作家で、アイルランド系移民の家庭に育った自伝的な経験をもとに、人間の内面の闇と家族間の愛憎を写実的に描きました。

代表作品

  • 『夜への長い旅路』
  • 『楡の木陰の欲望』

代表作紹介 — 『夜への長い旅路』(代表作(死後発表))

酒と麻薬、過去への悔恨に苦しむ一家が、一日のうちに互いを責めては許すことを繰り返す過程を描いた自伝的戯曲で、作家の死後に遺族によって上演されました。

📖

1937年 · ロジェ・マルタン・デュ・ガール(Roger Martin du Gard)

フランス

選定理由

連作小説『チボー家の人々』において、人間の葛藤と同時代の生の根本的な諸相を描き出した芸術的な力と真実性が評価され受賞しました。(選定理由に明記された作品:『チボー家の人々(Les Thibault)』)

作家略歴

フランスの小説家で、トルストイ流の大河小説の伝統を受け継ぎ、二人の兄弟の人生を通して一時代のフランス・ブルジョワ社会の肖像を描きました。

代表作品

  • 『チボー家の人々』

代表作紹介 — 『チボー家の人々』(受賞時の選定理由に明記された作品)

厳格なカトリックの家に生まれた兄弟、従順な医師アントワーヌと反逆児ジャックの対照的な人生を通して世紀転換期のフランス社会を描き、第一次世界大戦の勃発と破局で物語が締めくくられる8部作の大河小説です。

📖

1938年 · パール・バック(Pearl Buck)

アメリカ

選定理由

中国農民の暮らしを描いた豊かで真に叙事詩的な作品と、卓越した伝記文学が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカ人宣教師の両親のもと中国で育った小説家で、西洋の読者にはなじみの薄かった中国農民の暮らしを写実的に紹介しました。

代表作品

  • 『大地』
  • 『息子たち』

代表作紹介 — 『大地』(代表作)

貧しい農夫王龍(ワン・ルン)が勤勉と倹約で土地を増やし富を築くものの、豊かになるにつれて家族と土地へのもともとの素朴な愛情を失っていく過程を通して、中国農民の暮らしと土地への執着を描いた小説です。

📖

1939年 · フランス・エーミル・シランパー(Frans Eemil Sillanpää)

フィンランド

選定理由

祖国の農民の暮らしへの深い理解と、その暮らしと自然との関わりを描き出した卓越した芸術性が評価され、フィンランドから初めて受賞しました。

作家略歴

フィンランドの小説家で、生物学を学んだ経験をもとに、人間の生を自然の循環の中の一つの生命現象として見つめる独特のまなざしを示しました。

代表作品

  • Nuorena nukkunut
  • Hurskas kurjuus

代表作紹介 — Nuorena nukkunut(代表作)

フィンランドの農村の少女シリヤが素朴に成長し、短い生涯を閉じるまでの過程を、季節の移ろいと自然のリズムに重ね合わせて淡々と描いた小説です。

1941〜1960年

📖

1944年 · ヨハネス・ヴィルヘルム・イェンセン(Johannes Vilhelm Jensen)

デンマーク

選定理由

稀に見る力強く豊かな詩的想像力に、幅広い知的好奇心と大胆で独創的な文体が結びついた業績が評価され受賞しました。

作家略歴

デンマークの小説家・詩人で、進化論と人類学的な想像力を文学に取り入れ、人類文明の起源を扱う壮大な物語に挑みました。

代表作品

  • Den lange Rejse
  • Himmerlandshistorier

代表作紹介 — Den lange Rejse(代表作)

氷河期からコロンブスの新大陸航海に至るまで、人類が火を発見し文明を築きながら移動してきた進化の旅路を、神話的な想像力で再構成した連作の叙事詩的小説です。

📜

1945年 · ガブリエラ・ミストラル(Gabriela Mistral)

チリ

選定理由

強い感情から生まれた抒情詩によって、ラテンアメリカ全体の理想主義的な願いを象徴する存在となった功績が評価され、ラテンアメリカから初めて受賞しました。

作家略歴

チリの詩人・教育者・外交官で、個人的な喪失の痛みを、母性や子どもたちへの愛情、ラテンアメリカのアイデンティティへの思索へと昇華させました。

代表作品

  • Desolación
  • Ternura

代表作紹介 — Desolación(代表作)

婚約者の自殺という個人的な悲劇を契機に書かれた詩集で、喪失と悲しみ、母と子への愛、信仰を抑制された言葉に込めた作品です。

📖

1946年 · ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse)

ドイツ/スイス

選定理由

大胆さと洞察力をますます深めていく霊感に満ちた著作を通して、古典的な人文主義の理想と高い文体的資質をともに体現した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ドイツ生まれでスイスに帰化した小説家・詩人で、東洋思想への関心を背景に自己探求と精神的成長を描いた小説により、世界中の若い読者から幅広く愛されました。

代表作品

  • 『デミアン』
  • 『シッダールタ』
  • 『ガラス玉演戯』

代表作紹介 — 『デミアン』(代表作)

少年シンクレールが謎めいた友人デミアンと出会い、善悪の二元論的な世界観を打ち破って、自らの内なる声に従い本当の自己を見いだしていく成長の過程を描いた小説です。

📖

1947年 · アンドレ・ジッド(André Gide)

フランス

選定理由

真理への恐れを知らない愛によって、人間の問題と状況を鋭い心理的洞察とともに扱った、幅広く芸術的に重要な著作が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの小説家・批評家で、因習的な道徳と個人の誠実さとの葛藤を執拗に探究し、のちにソ連体制を批判した旅行記でも大きな波紋を呼びました。

代表作品

  • 『狭き門』
  • 『贋金つかい』
  • 『地の糧』

代表作紹介 — 『狭き門』(代表作)

いとこ同士のジェロームとアリサが深く愛し合いながらも、アリサが宗教的な禁欲と自己犠牲を優先して自ら幸福を遠ざけていく姿を通して、信仰と愛、完全さへの強迫を描いた小説です。

📜

1948年 · T・S・エリオット(T. S. Eliot)

イギリス(アメリカ生まれ)

選定理由

現代詩に対する卓越した先駆的な貢献が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカで生まれイギリスに帰化した詩人・批評家・劇作家で、断片化されたイメージと引喩に満ちた詩によってモダニズム詩の新たな方向を切り開きました。

代表作品

  • 『荒地』
  • 『四つの四重奏』
  • 『J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌』

代表作紹介 — 『荒地』(代表作)

第一次世界大戦後に精神的に荒廃したヨーロッパ文明を水の涸れた荒地にたとえ、神話やさまざまな言語からの引用を断片的にモンタージュしながら、再生と救済の可能性を模索した長詩です。

📖

1949年 · ウィリアム・フォークナー(William Faulkner)

アメリカ

選定理由

現代アメリカ小説への力強く芸術的に比類のない貢献が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカ南部ミシシッピ州出身の小説家で、架空のヨクナパトーファ郡を舞台に、南北戦争後に没落していく南部社会を意識の流れなどの実験的な文体で描きました。

代表作品

  • 『響きと怒り』
  • 『死の床に横たわりて』
  • 『アブサロム、アブサロム!』

代表作紹介 — 『響きと怒り』(代表作)

没落していく南部の名家コンプソン家の物語を、知的障害のある末息子、自殺を控えた兄、冷笑的な弟という三人それぞれの意識の流れで語り、一族の崩壊と時間への強迫を描き出した実験的な小説です。

📚

1950年 · バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)

イギリス

選定理由

人道主義的な理想と思想の自由を擁護してきた、多彩で意義深い著作が評価され受賞しました。

作家略歴

イギリスの哲学者・数学者・社会批評家で、数理論理学に貢献した学者であると同時に、平易な文体で大衆と対話した反戦・人権運動家でもありました。

代表作品

  • 『西洋哲学史』
  • 『幸福論』

代表作紹介 — 『西洋哲学史』(代表作)

古代ギリシャから20世紀初頭までの西洋哲学史を、各時代の社会的・政治的文脈とともにわかりやすく解き明かした一般向けの教養書で、専門的な哲学書の枠を超えて幅広い読者に愛されました。

📖

1951年 · ペール・ラーゲルクヴィスト(Pär Lagerkvist)

スウェーデン

選定理由

人類が直面する永遠の問いへの答えを詩によって模索する中で示した芸術的活力と、真の精神的独立性が評価され受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの小説家・詩人・劇作家で、実存的な問いや善悪の問題を簡潔で寓話的な形式の中に凝縮した作品でよく知られています。

代表作品

  • 『バラバ』
  • 『こびと』

代表作紹介 — 『バラバ』(代表作)

イエスの代わりに釈放された罪人バラバが、イエスの死と復活の知らせに触れたあとも最後まで信仰を確信できずにさまよい、生涯を終えるまでを通して、信仰と懐疑のあいだの実存的な苦悩を描いた小説です。

📖

1952年 · フランソワ・モーリアック(François Mauriac)

フランス

選定理由

小説の中で人間の生のドラマを、深い霊的洞察と芸術的な強度をもって掘り下げた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスのカトリック作家で、篤い信仰と人間の罪、欲望とのあいだの葛藤を、フランス南西部のブルジョワ家庭を舞台に好んで描きました。

代表作品

  • 『テレーズ・デスケルウ』
  • 『蝮のからみあい』

代表作紹介 — 『テレーズ・デスケルウ』(代表作)

息の詰まるようなブルジョワの結婚生活に閉じ込められた女性テレーズが夫の毒殺を図って未遂に終わったのち、自らの欲望と罪の意識、世間の偽善を見つめるようになる過程を冷静なまなざしで描いた小説です。

🎤

1953年 · ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)

イギリス

選定理由

歴史・伝記叙述の巨匠としての力量と、崇高な人間的価値を擁護した卓越した雄弁が評価され受賞しました。

作家略歴

イギリスの政治家で、第二次世界大戦中は首相としてナチス・ドイツに立ち向かう国民を率い、戦後には膨大な戦争回顧録と歴史書を自ら執筆しました。

代表作品

  • 『第二次世界大戦』
  • 『英語諸国民の歴史』

代表作紹介 — 『第二次世界大戦』(代表作)

戦争指導者としての自らの経験と各種の公文書をもとに、ナチス・ドイツの台頭から終戦までの第二次世界大戦全体を政治・軍事の観点から叙述した全6巻の大作回顧録です。

📖

1954年 · アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)

アメリカ

選定理由

近作『老人と海』に最もよく示された物語芸術への熟達と、現代の文体に及ぼした影響が評価され受賞しました。(選定理由に明記された作品:『老人と海(The Old Man and the Sea)』)

作家略歴

アメリカの小説家で、無駄をそぎ落とした簡潔な文体による「氷山理論」を確立し、従軍記者の経験をもとに戦争と喪失、男性的な勇気の問題を好んで扱いました。

代表作品

  • 『老人と海』
  • 『誰がために鐘は鳴る』
  • 『武器よさらば』

代表作紹介 — 『老人と海』(受賞時の選定理由に明記された作品)

84日間一匹も魚を釣れなかった老漁師サンチャゴが、ついに巨大なカジキと三日間の死闘を繰り広げて仕留めるものの、帰路でサメの群れにすっかり食いちぎられ骨だけが残るという物語を通して、人間の尊厳と不屈の意志を描いた中編小説です。

📖

1955年 · ハルドル・ラクスネス(Halldór Laxness)

アイスランド

選定理由

アイスランドの偉大な物語芸術を新たによみがえらせた生き生きとした叙事詩的な力が評価され、アイスランドから初めて受賞しました。

作家略歴

アイスランドの小説家で、アイスランドの伝統的なサガ文学の叙事の伝統を受け継ぎ、20世紀アイスランドの農民や漁民の暮らしを描きました。

代表作品

  • Sjálfstætt fólk
  • Heimsljós

代表作紹介 — Sjálfstætt fólk(代表作)

18年間小作農として働いた末にようやく自分の土地を手に入れた農夫ビャルトゥルが、自立への頑なな執着ゆえにかえって家族を失い破産に至る過程を通して、独立という理想の裏側を描いた小説です。

📜

1956年 · フアン・ラモン・ヒメネス(Juan Ramón Jiménez)

スペイン

選定理由

スペイン語の抒情詩において、高貴な精神と芸術的純粋さの模範となった功績が評価され受賞しました。

作家略歴

スペインの詩人で、スペイン内戦後はアメリカやプエルトリコで亡命生活を送りながら、言葉を極限まで切り詰めた「純粋詩」を追求しました。

代表作品

  • 『プラテーロとわたし』
  • Diario de un poeta recién casado

代表作紹介 — 『プラテーロとわたし』(代表作)

作者自身を思わせる語り手が小さなロバのプラテーロとともにスペイン・アンダルシアの村を歩きながら、自然や隣人、生と死を静かに見つめる短い散文詩を編んだ作品です。

📖

1957年 · アルベール・カミュ(Albert Camus)

フランス

選定理由

人間の良心の問題を明晰な真剣さで照らし出した重要な文学的業績が評価され、当時として史上2番目の若さで受賞しました。

作家略歴

アルジェリア生まれのフランスの小説家・哲学者で、サルトルとともに実存主義を代表するとされますが、自らは「不条理」の哲学者と規定し、46歳で交通事故により早世しました。

代表作品

  • 『異邦人』
  • 『ペスト』
  • 『シーシュポスの神話』

代表作紹介 — 『異邦人』(代表作)

母の葬儀で涙を流さなかったことを理由に社会から異邦人扱いされるムルソーが、偶発的に殺人を犯したのち、事件そのものよりも無関心な態度のために死刑を宣告される過程を通して、生の不条理を描いた小説です。

📖

1958年 · ボリス・パステルナーク(Boris Pasternak)

ソ連

選定理由

現代の抒情詩の分野と、偉大なロシア叙事文学の伝統の分野の双方で成し遂げた重要な業績が評価され受賞が決まりましたが、ソ連当局の圧力により受賞を辞退せざるをえませんでした。

作家略歴

ソ連の詩人・小説家で、代表作『ドクトル・ジバゴ』がソ連国内で出版を拒否されたためイタリアで先に刊行し、そのためにソ連作家同盟から除名されるなどの政治的弾圧を受けました。

代表作品

  • 『ドクトル・ジバゴ』
  • 『わが妹人生』

代表作紹介 — 『ドクトル・ジバゴ』(代表作)

医師であり詩人でもあるユーリー・ジバゴが、ロシア革命と内戦という激動の時代に二人の女性のあいだで愛と理想、生存のはざまを揺れ動きながら生きる姿を描いた大河小説で、革命が個人の人生をいかに踏みにじるかを抒情的に描き出しました。

📜

1959年 · サルヴァトーレ・クァジーモド(Salvatore Quasimodo)

イタリア

選定理由

古典的な情熱をもって、私たちの時代の悲劇的な生の経験を表現した抒情詩が評価され受賞しました。

作家略歴

イタリアの詩人で、初期には暗示的なイメージを中心とするエルメティズモ(隠秘派)の詩を書きましたが、第二次世界大戦を経験したのち、戦争の惨禍と社会の現実を直視する詩へと転じました。

代表作品

  • Ed è subito sera
  • La vita non è sogno

代表作紹介 — Ed è subito sera(代表作)

表題作はわずか3行で、「人はみな大地の心臓の上にひとり立つ、一筋の陽光に刺し貫かれて。そしてたちまち夕暮れ」という詩句によって人生の短さと孤独を凝縮して歌った、エルメティズモを代表する詩です。

📜

1960年 · サン=ジョン・ペルス(Saint-John Perse)

フランス

選定理由

高く舞い上がる飛翔と喚起力あるイメージによって、私たちの時代の状況を映し出した詩的業績が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの詩人・外交官で、本名はアレクシ・レジェ(Alexis Leger)といい、外交官としての身分と詩人としてのアイデンティティを切り離すために筆名を用いました。

代表作品

  • Anabase
  • Amers

代表作紹介 — Anabase(代表作)

一人の征服者が見知らぬ砂漠の地を横切って遠征に出る旅路を題材に、具体的な物語よりも壮大で密度の高いイメージの連なりによって、人間文明の拡張と放浪の本質を歌った散文詩です。

1961〜1980年

📖

1961年 · イヴォ・アンドリッチ(Ivo Andrić)

ユーゴスラビア

選定理由

祖国の歴史から引き出した主題と人間の運命を、叙事詩的な力で描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ボスニア出身のユーゴスラビアの外交官・小説家で、オスマン帝国支配期から近代までのバルカン半島の諸民族の入り組んだ歴史を扱った大河小説でよく知られています。

代表作品

  • 『ドリナの橋』
  • Travnička hronika

代表作紹介 — 『ドリナの橋』(代表作)

ボスニアのヴィシェグラードでドリナ川に架かる橋を中心に、16世紀のオスマン帝国時代から第一次世界大戦直前まで約400年にわたり、橋を行き交った諸民族と世代の盛衰をパノラマのように描いた年代記小説です。

📖

1962年 · ジョン・スタインベック(John Steinbeck)

アメリカ

選定理由

写実的でありながら想像力にあふれた著作を通して、共感に満ちたユーモアと鋭い社会的洞察をあわせて示した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカの小説家で、大恐慌期のカリフォルニアの移住労働者や小作農など、社会の底辺に生きる人々の暮らしを写実主義的な筆致で描きました。

代表作品

  • 『怒りの葡萄』
  • 『二十日鼠と人間』
  • 『エデンの東』

代表作紹介 — 『怒りの葡萄』(代表作)

大恐慌と砂嵐でオクラホマの土地を失ったジョード一家が、仕事を求めてカリフォルニアへ移住する中で味わう搾取と貧困を通して、大恐慌期のアメリカ社会の不条理と人間の尊厳を描いた小説です。

📜

1963年 · イオルゴス・セフェリス(Giorgos Seferis)

ギリシャ

選定理由

ギリシャ文化の世界への深い感受性から着想を得た卓越した抒情詩が評価され、ギリシャから初めて受賞しました。

作家略歴

ギリシャの詩人・外交官で、古代ギリシャ神話と、現代ギリシャ人の流浪と故郷喪失の経験を結びつけた詩により、現代ギリシャ語の詩を世界に知らしめました。

代表作品

  • Mythistorema
  • Imerologio Katastromatos

代表作紹介 — Mythistorema(代表作)

古代ギリシャ神話のオデュッセウスの放浪を、現代のギリシャ人が戦争と離散によって経験した流浪に重ね、24篇の連作詩で失われた故郷とアイデンティティへの思慕を歌った詩集です。

📚

1964年 · ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre)

フランス

選定理由

思想に富み、自由の精神と真理の探究に満ちたその作品が私たちの時代に広範な影響を与えたとして受賞者に選ばれましたが、本人が受賞を辞退しました。

作家略歴

フランスの哲学者・小説家・劇作家で、実存主義を代表する思想家であり、「実存は本質に先立つ」という命題で知られています。制度としての賞を拒むという信念から、ノーベル賞の受賞を自ら辞退しました。

代表作品

  • 『嘔吐』
  • 『存在と無』
  • 『自由への道』

代表作紹介 — 『嘔吐』(代表作)

歴史研究家ロカンタンが、ありふれた事物を前にして突然、存在そのものの無意味さと不条理さに圧倒され吐き気を覚える体験を通して、実存が本質に先立つというサルトル哲学を小説の形で具現化した作品です。

📖

1965年 · ミハイル・ショーロホフ(Mikhail Sholokhov)

ソ連

選定理由

ロシア民衆の生の歴史的な一局面を叙事詩的な筆力で描き出した『静かなドン』を理由に受賞者に選ばれました。(選定理由に明記された作品:『静かなドン(Тихий Дон)』)

作家略歴

ソ連の小説家で、ソ連体制が公認した社会主義リアリズムの作家であり、故郷ドン川流域のコサックの村を舞台に革命期の激動を描きました。

代表作品

  • 『静かなドン』
  • 『開かれた処女地』

代表作紹介 — 『静かなドン』(受賞時の選定理由に明記された作品)

ドン川流域のコサックの青年グリゴーリーが、第一次世界大戦とロシア革命、内戦という激動期を経て、どの陣営にも完全には属せないまま愛と理念のはざまで破滅していく過程を描いた大河小説です。

📖

1966年 · シュムエル・ヨセフ・アグノン(Shmuel Yosef Agnon)

イスラエル

選定理由

ユダヤ民族の生から題材を得た、深く独特な物語芸術が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

ガリツィア出身でパレスチナ(のちのイスラエル)に移住した小説家で、ヘブライ語で創作した作家として初めてノーベル文学賞を受け、伝統的なユダヤ信仰と近代的な生のあいだの亀裂を描きました。

代表作品

  • Hachnasat Kalah
  • Tmol Shilshom

代表作紹介 — Hachnasat Kalah(代表作)

貧しいユダヤ人の学者が三人の娘の婚礼費用を工面するため各地を渡り歩く物語を通して、東欧ハシディズム共同体の信仰と民話、伝統をユーモラスかつ切なく描いた小説です。

📜

1966年 · ネリー・ザックス(Nelly Sachs)

ドイツ/スウェーデン

選定理由

イスラエルの民の運命を感動的な力で解き明かした卓越した抒情詩と劇作が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

ドイツ生まれのユダヤ系詩人で、ナチスの迫害を逃れてスウェーデンに亡命し、ホロコーストの犠牲となった人々への哀悼を詩の中心的な主題としました。

代表作品

  • In den Wohnungen des Todes
  • Eli

代表作紹介 — In den Wohnungen des Todes(代表作)

ナチスの強制収容所で命を落とした犠牲者たちへの哀悼の詩を集めた詩集で、凄惨な題材を直接告発するよりも、象徴と隠喩を通して沈黙と悲しみの言葉へと昇華させました。

📖

1967年 · ミゲル・アンヘル・アストゥリアス(Miguel Ángel Asturias)

グアテマラ

選定理由

ラテンアメリカ先住民の特質と伝統に深く根ざした、生き生きとした文学的業績が評価され受賞しました。

作家略歴

グアテマラの小説家・外交官で、マヤ先住民の神話とシュルレアリスム的な想像力を結びつけ、中南米の独裁政治を寓話的に批判した作品を残しました。

代表作品

  • 『大統領閣下』
  • 『トウモロコシの人間たち』

代表作紹介 — 『大統領閣下』(代表作)

名前の明かされないラテンアメリカのある国の独裁者と、その圧政のもとで監視と密告、恐怖に押しつぶされて生きる市民の姿を通して、中南米の軍事独裁の暴力性を告発した小説です。

📖

1968年 · 川端康成(Yasunari Kawabata)

日本

選定理由

「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現する、その叙述の卓越さ」が評価され、日本人として初めて受賞しました。

作家略歴

日本の小説家で、幼くして両親と祖父母をすべて失った孤独な生い立ちを背景に、抑制された文体と余白の美学によって喪失と無常の情感を描きました。

代表作品

  • 『雪国』
  • 『千羽鶴』
  • 『古都』

代表作紹介 — 『雪国』(代表作)

東京から来た妻子ある男・島村と、雪国の温泉町の芸者・駒子とのはかない恋を通して、雪に覆われた風景の静謐な美しさと、成就しえない関係の虚しさを抒情的に描いた小説です。

🎭

1969年 · サミュエル・ベケット(Samuel Beckett)

アイルランド

選定理由

小説と戯曲の新しい形式の中で、困窮した現代人の境遇がかえって高められることを示した著作が評価され受賞しました。

作家略歴

アイルランド出身で、パリを拠点にフランス語と英語の両方で創作した作家です。伝統的な筋や人物像を解体した不条理劇により、20世紀後半の演劇に計り知れない影響を与えました。

代表作品

  • 『ゴドーを待ちながら』
  • 『モロイ』

代表作紹介 — 『ゴドーを待ちながら』(代表作)

二人の放浪者ヴラジーミルとエストラゴンが、正体が最後まで明かされない「ゴドー」という人物を田舎道でひたすら待ちながら、無意味な会話と行動を繰り返す、不条理劇を代表する戯曲です。

📖

1970年 · アレクサンドル・ソルジェニーツィン(Aleksandr Solzhenitsyn)

ソ連

選定理由

ロシア文学の不可欠な伝統を追求する中で示した倫理的な力が評価され受賞しましたが、ソ連当局の圧力により授賞式には出席できませんでした。

作家略歴

ソ連の小説家で、スターリン体制下の強制労働収容所(グラーグ)での体験をもとにソ連体制の圧政を告発し、のちに市民権を剥奪されて西側へ追放されました。

代表作品

  • 『イワン・デニーソヴィチの一日』
  • 『収容所群島』

代表作紹介 — 『イワン・デニーソヴィチの一日』(代表作)

シベリアの強制労働収容所に囚われた平凡な囚人イワン・デニーソヴィチが、過酷な労働と飢えの中でも自尊心を守ろうとする一日を淡々と描き、ソ連の強制収容所体制の実態を初めて公に暴いた小説です。

📜

1971年 · パブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)

チリ

選定理由

根源的な力によって、一つの大陸の運命と夢を生き生きとよみがえらせた詩が評価され受賞しました。

作家略歴

チリの詩人・外交官・政治家で、情熱的な愛の詩から、ラテンアメリカの歴史と政治を歌った叙事詩まで、幅広い作品を残しました。

代表作品

  • 『大いなる歌』
  • 『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』

代表作紹介 — 『大いなる歌』(代表作)

アメリカ大陸の自然とインカ文明からスペインの植民地支配、独立運動、20世紀の民衆の闘争までを包み込み、ラテンアメリカ全体の歴史を一つの巨大な叙事詩として歌い上げた詩集です。

📖

1972年 · ハインリヒ・ベル(Heinrich Böll)

西ドイツ

選定理由

時代への幅広い視野と繊細な人物描写の技法を結びつけ、ドイツ文学の刷新に貢献した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ドイツの小説家で、第二次世界大戦に従軍した経験をもとに、戦後ドイツ社会の罪の意識と物質万能主義、報道権力の暴力性を批判的に描きました。

代表作品

  • 『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』
  • 『道化の意見』

代表作紹介 — 『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』(代表作)

平凡な女性カタリーナが偶然出会った男のせいでテロ容疑者の疑いをかけられ、扇情的な報道を繰り返すイエロージャーナリズムによって私生活と名誉を徹底的に破壊されていく過程を描いた小説です。

📖

1973年 · パトリック・ホワイト(Patrick White)

オーストラリア

選定理由

叙事詩的かつ心理的な物語芸術によって、文学に新たな大陸をもたらした功績が評価され、オーストラリア人として初めて受賞しました。

作家略歴

オーストラリアの小説家で、ヨーロッパで教育を受けたのち帰国し、オーストラリア特有の広大な奥地(アウトバック)と移民たちの精神的な孤立を心理的に深く描きました。

代表作品

  • 『ヴォス』
  • Riders in the Chariot

代表作紹介 — 『ヴォス』(代表作)

19世紀、ドイツ出身の探検家ヴォスがオーストラリア内陸の未知の奥地を横断する探検を率いて破滅へと至る過程を、彼を愛する女性ローラとの精神的な交感と交差させて描いた小説です。

📖

1974年 · エイヴィンド・ユーンソン(Eyvind Johnson)

スウェーデン

選定理由

国と時代を自在に行き来しながら自由に奉仕した物語芸術が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの労働者階級出身の小説家で、正規の教育をほとんど受けていない独学者でしたが、ヨーロッパ各地を渡り歩いて得た経験を幅広い歴史小説・社会小説へと昇華させました。

代表作品

  • Krilon-trilogin
  • Hans nådes tid

代表作紹介 — Krilon-trilogin(代表作)

第二次世界大戦中、中立国スウェーデンの小さな町の人々がナチズムの脅威を前に、それぞれのやり方で人間性と自由を守ろうと努める姿を描いた三部作の小説です。

📜

1974年 · ハリー・マーティンソン(Harry Martinson)

スウェーデン

選定理由

一滴の露の中にも宇宙を映し出すその著作が評価され、共同受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの詩人・小説家で、船員として世界を渡り歩いたのち、自然と科学的な想像力を結びつけた独創的な宇宙的叙事詩を残しました。

代表作品

  • 『アニアーラ』
  • Nässlorna blomma

代表作紹介 — 『アニアーラ』(代表作)

放射能で汚染された地球を離れて火星へ向かっていた宇宙船アニアーラ号が航路を外れ、果てしない宇宙空間を永遠に漂流することになる中で、乗客たちが味わう絶望と人類文明への省察を描いた連作叙事詩です。

📜

1975年 · エウジェーニオ・モンターレ(Eugenio Montale)

イタリア

選定理由

幻想を排した人生観をもって、すぐれた芸術的感受性で人間的価値を解釈した独自の詩が評価され受賞しました。

作家略歴

イタリアの詩人で、エルメティズモ(隠秘派)の代表的存在とされ、素朴な地中海の風景の中に人生の苦しみと幻滅を抑制された言葉で込めました。

代表作品

  • 『烏賊の骨』(Ossi di seppia)
  • Le occasioni

代表作紹介 — 『烏賊の骨』(代表作)

浜辺で見つかる干からびたイカの甲を詩集の象徴とし、地中海リグーリア海岸の風景を通して、人生のはかなさと存在の乾きを凝縮されたイメージで描いた詩集です。

📖

1976年 · ソール・ベロー(Saul Bellow)

アメリカ(カナダ生まれ)

選定理由

人間への理解と、現代文化への繊細な分析が結びついた作品が評価され受賞しました。

作家略歴

カナダで生まれシカゴで育ったアメリカの小説家で、ユダヤ系移民の知識人のアイデンティティと都市に生きる現代人の疎外を機知に富んだ文体で描きました。

代表作品

  • 『ハーツォグ』
  • 『オーギー・マーチの冒険』
  • 『フンボルトの贈り物』

代表作紹介 — 『ハーツォグ』(代表作)

離婚と学問上の挫折で精神的な危機に陥った知識人ハーツォグが、生者と死者、有名人と無名人を問わず心の中で絶えず手紙を書き続けながら、自らの人生を振り返っていく過程を描いた小説です。

📜

1977年 · ビセンテ・アレイクサンドレ(Vicente Aleixandre)

スペイン

選定理由

人間存在の条件と今日の社会を宇宙的な視点から照らし出した創造的な詩と、戦間期スペイン詩の偉大な復興を代表する位置が評価され受賞しました。

作家略歴

スペインの「27年世代」を代表する詩人で、スペイン内戦後も国内にとどまり、シュルレアリスム的なイメージによって人間と自然、肉体と宇宙との合一を歌いました。

代表作品

  • La destrucción o el amor
  • Sombra del paraíso

代表作紹介 — La destrucción o el amor(代表作)

愛を、個としての自我が消滅して自然と宇宙全体に溶け込んでいく、破壊的でありながら神秘的な合一の体験として描き、シュルレアリスム的なイメージを通して肉体の欲望と宇宙的な生命力を歌った詩集です。

📖

1978年 · アイザック・バシェヴィス・シンガー(Isaac Bashevis Singer)

ポーランド/アメリカ

選定理由

ポーランド系ユダヤ人の文化的伝統に根ざしながら、普遍的な人間の条件を生き生きとよみがえらせた情熱的な物語芸術が評価され受賞しました。

作家略歴

ポーランド生まれでアメリカへ移住したユダヤ系の小説家で、ホロコーストによって消えた東欧ユダヤ人共同体(シュテットル)の暮らしと信仰、迷信をイディッシュ語で書き残しました。

代表作品

  • Sonim, di Geshichte fun a Liebe
  • Der Sotn in Goray

代表作紹介 — Der Sotn in Goray(代表作)

17世紀ポーランドの町ゴライが偽メシア、シャブタイ・ツヴィへの熱狂に巻き込まれて道徳的崩壊に至る過程を通して、盲目的な信仰と集団的な狂気がもたらす破局を描いた小説です。

📜

1979年 · オデュッセアス・エリティス(Odysseas Elytis)

ギリシャ

選定理由

ギリシャの伝統を背景に、感覚的な力と知的な明晰さを備えた詩によって、自由と創造を求める現代人の闘いを描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ギリシャの詩人で、フランスのシュルレアリスムの影響を受けながらも、エーゲ海の明るい光と自然を歌う独自のギリシャ的シュルレアリスムを確立しました。

代表作品

  • Το Άξιον Εστί
  • Ήλιος ο πρώτος

代表作紹介 — Το Άξιον Εστί(代表作)

ギリシャ正教の典礼の形式を借りて、ギリシャという国の誕生と受難(第二次世界大戦と内戦の苦しみ)、そして賛美を三部構成で歌い上げた大叙事詩です。

📜

1980年 · チェスワフ・ミウォシュ(Czesław Miłosz)

ポーランド/アメリカ

選定理由

妥協のない明晰さで、激しい対立の世界に置かれた人間の境遇を代弁した声が評価され受賞しました。

作家略歴

ポーランドの詩人で、ナチス占領期とその後の共産主義体制の両方を経験したのち西側へ亡命してアメリカで活動し、全体主義が人間の精神に及ぼす影響を省察した著作でもよく知られています。

代表作品

  • 『囚われの魂』(Zniewolony umysł)
  • Rodzinna Europa

代表作紹介 — 『囚われの魂』(代表作)

全体主義体制のもとで知識人たちが自らを欺きながらイデオロギーに順応していく心理的メカニズムを、実在する4人のポーランド人作家をモデルに分析した散文で、全体主義がいかに人間の精神をむしばむかを扱った著作です。

1981〜2000年

📚

1981年 · エリアス・カネッティ(Elias Canetti)

イギリス/ブルガリア

選定理由

幅広い視野と豊かな思想、芸術的な力を特徴とする著作が評価され受賞しました。

作家略歴

ブルガリア生まれのセファルディム系ユダヤ人作家で、いくつもの言語圏を移り住みながら育ったのちドイツ語で創作し、群衆心理に関する独創的な理論書でもよく知られています。

代表作品

  • 『眩暈』(Die Blendung)
  • 『群衆と権力』

代表作紹介 — 『群衆と権力』(代表作)

群衆が個人を飲み込んで一つの巨大な力へと変貌する心理的メカニズムと、権力者がその群衆心理をいかに利用するかを、人類学的・歴史的な事例を幅広く動員して分析した著作です。

📖

1982年 · ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez)

コロンビア

選定理由

幻想と現実が結びついた豊かな想像の世界を描き出した長編小説と短編が評価され受賞しました。

作家略歴

コロンビアの小説家で、現実と幻想が自然に混ざり合う「魔術的リアリズム」を代表する作家として、ラテンアメリカ文学を世界的な地位に押し上げました。

代表作品

  • 『百年の孤独』
  • 『コレラの時代の愛』

代表作紹介 — 『百年の孤独』(代表作)

架空の村マコンドを築いたブエンディア家7代の盛衰を通して、近親婚の呪い、繰り返される歴史、孤独という宿命を魔術的な想像力で描き出した、ラテンアメリカ文学の代表作です。

📖

1983年 · ウィリアム・ゴールディング(William Golding)

イギリス

選定理由

写実的な物語芸術の明晰さと神話の多様性・普遍性を結びつけ、今日の人間の条件を照らし出した小説が評価され受賞しました。

作家略歴

イギリスの小説家で、第二次世界大戦に従軍した経験をもとに、人間の本性にひそむ暴力性と野蛮さを寓話的な形式で掘り下げました。

代表作品

  • 『蠅の王』
  • 『尖塔』

代表作紹介 — 『蠅の王』(代表作)

無人島に不時着したイギリスの少年たちが、はじめは秩序を築こうとするものの、次第に文明の規範が崩れて暴力と狂気に支配されていく過程を通して、人間の本性に潜む野蛮さを描いた小説です。

📜

1984年 · ヤロスラフ・サイフェルト(Jaroslav Seifert)

チェコスロバキア

選定理由

清新さと官能性、豊かな創意に満ちた詩によって、人間の不屈の精神と多才さについての解放的なイメージを示した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

チェコの詩人で、初期のアヴァンギャルド詩から後期の素朴な抒情詩まで幅広いスタイルを経て、共産主義体制下でもプラハと祖国への愛情を歌いました。

代表作品

  • Deštník z Piccadilly
  • Mozart v Praze

代表作紹介 — Deštník z Piccadilly(代表作)

プラハの路地や風景、過ぎ去った人生への回想を題材に、素朴で官能的なイメージの中に老年の静観と祖国への愛情を込めた詩集です。

📖

1985年 · クロード・シモン(Claude Simon)

フランス

選定理由

人間の条件を描くにあたり、詩人と画家の創造性を、時間への深まった認識と結びつけた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの小説家で、伝統的な筋や人物の代わりに、感覚的なイメージと記憶の断片を長大な文章の中に流し込む「ヌーヴォー・ロマン(新しい小説)」を代表する作家です。

代表作品

  • 『フランドルへの道』
  • 『アカシア』

代表作紹介 — 『フランドルへの道』(代表作)

第二次世界大戦中にフランス軍の壊滅を経験した騎兵の断片的な記憶を、時間の順序を入り乱れさせた意識の流れで再構成し、戦争の混乱と記憶の不確かさを実験的に描いた小説です。

🎭

1986年 · ウォーレ・ショインカ(Wole Soyinka)

ナイジェリア

選定理由

幅広い文化的視野と詩的な響きによって存在のドラマを形づくった功績が評価され、アフリカ人として初めて受賞しました。

作家略歴

ナイジェリアの劇作家・詩人で、ヨルバ族の神話と西洋演劇の技法を結びつけ、アフリカ社会の政治的腐敗と伝統、近代化との葛藤を描きました。

代表作品

  • Death and the King's Horseman
  • A Dance of the Forests

代表作紹介 — Death and the King's Horseman(代表作)

ヨルバ族の王が亡くなり、慣習に従って王の馬丁頭が後を追って命を絶たねばならないところを、イギリス植民地当局が阻止したことから起こる悲劇を通して、伝統文化と植民地権力の衝突を描いた戯曲です。

📜

1987年 · ヨシフ・ブロツキー(Joseph Brodsky)

アメリカ/ソ連

選定理由

思想の明晰さと詩的な強度に満ちた、あらゆるものを包み込む著作が評価され受賞しました。

作家略歴

ソ連で「徒食者(寄生虫)」の罪名により追放されたのちアメリカへ亡命したロシア系の詩人で、ロシア語と英語の両方で詩を書きました。

代表作品

  • Урания
  • A Part of Speech

代表作紹介 — A Part of Speech(代表作)

亡命者として感じる言語と故郷の喪失の痛みを題材に、古典的な形式と知的な言葉遊びを結びつけて、時間と喪失、流刑の経験を描き込んだ詩集です。

📖

1988年 · ナギーブ・マフフーズ(Naguib Mahfouz)

エジプト

選定理由

微妙なニュアンスに富んだ作品群を通してアラブの物語芸術を形づくり、全人類に通じる芸術とした功績が評価され、アラビア語圏から初めて受賞しました。

作家略歴

エジプトの小説家で、カイロの路地裏に生きる庶民の暮らしを、写実主義から実験的な手法までさまざまな形式で描き、現代アラブ小説の礎を築きました。

代表作品

  • カイロ三部作(Al-Thulathiyya)
  • Awlad Haretna

代表作紹介 — カイロ三部作(代表作)

カイロのある商家の3代にわたる物語を通して、第一次世界大戦後から1950年代までのエジプト社会の激動と、伝統と近代の価値観の衝突をパノラマのように描いた大河小説です。

📖

1989年 · カミロ・ホセ・セラ(Camilo José Cela)

スペイン

選定理由

抑制された憐れみの中にも、人間の脆さへの挑戦的な洞察を形づくった豊かで力強い散文が評価され受賞しました。

作家略歴

スペインの小説家で、スペイン内戦後の貧しく残酷な現実を冷徹で荒々しい文体で描いた「トレメンディスモ(凄惨主義)」小説の代表的作家です。

代表作品

  • 『パスクアル・ドゥアルテの家族』
  • 『蜂の巣』

代表作紹介 — 『蜂の巣』(代表作)

内戦直後のマドリードのあるカフェを中心に、100人を超える人物の暮らしを短い場面で交錯させ、蜂の巣のように入り組んだ都市の下層民の貧困と疎外を描いた実験的な小説です。

📜

1990年 · オクタビオ・パス(Octavio Paz)

メキシコ

選定理由

幅広い視野を持つ情熱的な著作によって、感覚的な知性と人文主義的な誠実さが結びついた業績が評価され受賞しました。

作家略歴

メキシコの詩人・外交官・批評家で、シュルレアリスムの影響を受けながらも、メキシコの歴史とアイデンティティを省察した詩と散文をともに残しました。

代表作品

  • 『太陽の石』
  • 『孤独の迷宮』

代表作紹介 — 『孤独の迷宮』(代表作)

アステカ文明とスペインによる征服、独立以後の歴史を貫きながら、メキシコ人のアイデンティティが征服と混血、孤独という傷からどのように形づくられたのかを省察したエッセイ集です。

📖

1991年 · ナディン・ゴーディマー(Nadine Gordimer)

南アフリカ共和国

選定理由

ノーベルの言葉を借りれば、壮大な叙事詩的著作を通して人類に非常に大きな利益をもたらした功績が評価され受賞しました。

作家略歴

南アフリカ共和国の小説家で、アパルトヘイト(人種隔離)体制のもとで白人と黒人の生が絡み合う姿を写実的に描き、体制を批判しました。

代表作品

  • The Conservationist
  • Burger's Daughter

代表作紹介 — Burger's Daughter(代表作)

反アパルトヘイト運動のために獄死した父を持つ女性が、父の政治的信念という影から抜け出して自らのアイデンティティと信念を見いだしていく過程を通して、南アフリカの人種政治の重さを描いた小説です。

📜

1992年 · デレク・ウォルコット(Derek Walcott)

セントルシア

選定理由

歴史的なビジョンに支えられた、多文化的な献身から生まれた大いなる輝きを放つ詩的業績が評価され受賞しました。

作家略歴

カリブ海のセントルシア出身の詩人・劇作家で、イギリス植民地支配の遺産とカリブ先住民・アフリカの文化が入り混じった混淆的なアイデンティティを詩的な言葉で探究しました。

代表作品

  • 『オメロス』
  • Another Life

代表作紹介 — 『オメロス』(代表作)

ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』の人物と構造を借りて、カリブ海の漁師たちの暮らしと愛、植民地の傷を壮大な叙事詩の形式で再創造した長編詩です。

📖

1993年 · トニ・モリスン(Toni Morrison)

アメリカ

選定理由

幻想的な想像力と詩的な表現力によって、アメリカの現実の本質的な局面に生命を吹き込んだ小説が評価され、黒人女性として初めて受賞しました。

作家略歴

アメリカの小説家で、奴隷制と黒人女性の経験を抒情的でありながら力強い文体で描き、アメリカ文学史において黒人の声を代表する作家となりました。

代表作品

  • 『ビラヴド』
  • 『ソロモンの歌』

代表作紹介 — 『ビラヴド』(代表作)

奴隷の身分から逃れた女性セサが、再び捕らえられて子どもが奴隷として生きるくらいならと幼い娘を手にかけた過去の罪悪感と、その娘の幽霊が成人女性の姿で戻ってくることから起こる出来事を描いた小説です。

📖

1994年 · 大江健三郎(Kenzaburō Ōe)

日本

選定理由

詩的な力によって想像の世界を創り出し、そこに生と神話を凝縮させて、現代の人間が置かれた窮状を当惑させるような姿で描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

日本の小説家で、知的障害のある長男を育てた個人的な経験と、広島の被爆者への取材をもとに、人間の尊厳と実存の問題を深く掘り下げました。

代表作品

  • 『個人的な体験』
  • 『万延元年のフットボール』

代表作紹介 — 『個人的な体験』(代表作)

脳に障害を持って生まれた息子を前に逃避を夢見ていた青年「バード」が、彷徨と回避の末に、父親として息子とともに生きていくことを決意するまでの心の軌跡を描いた自伝的小説です。

📜

1995年 · シェイマス・ヒーニー(Seamus Heaney)

アイルランド

選定理由

抒情的な美しさと倫理的な深みを備えた作品によって、日常の奇跡と生きている過去をたたえた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

北アイルランドの農家で育った詩人で、アイルランドの土と農作業の感覚的な描写から出発し、北アイルランド紛争の暴力を省察する詩へと進みました。

代表作品

  • 『ナチュラリストの死』
  • North

代表作紹介 — 『ナチュラリストの死』(代表作)

父や祖先たちが鋤で土を掘った農作業を、詩人がペンで詩を書く行為になぞらえることから始まる冒頭の詩をはじめ、アイルランドの農村での幼少期の記憶を感覚的によみがえらせた第一詩集です。

📜

1996年 · ヴィスワヴァ・シンボルスカ(Wisława Szymborska)

ポーランド

選定理由

詩的な正確さによって、歴史的・生物学的な文脈が人間の現実の断片の中に姿を現すようにした功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ポーランドの詩人で、寡作で知られ、平凡な日常の事物や出来事をアイロニカルで知的なまなざしでとらえ直し、生の本質を突く詩を書きました。

代表作品

  • 『終わりと始まり』
  • Sto pociech

代表作紹介 — 『終わりと始まり』(代表作)

戦争が終わったあとに瓦礫を片づける人々はカメラの前には立たないという淡々とした観察から始まり、歴史が記録しない戦後復興の日常と忘却について、アイロニカルなまなざしで省察した詩集です。

🎭

1997年 · ダリオ・フォ(Dario Fo)

イタリア

選定理由

中世の道化の伝統を受け継ぎ、権力を嘲笑して虐げられた人々の尊厳を擁護した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

イタリアの劇作家・俳優で、中世イタリアの即興仮面劇の伝統を現代の政治風刺と結びつけ、自ら演じながら巡回公演を行った政治参加型の演劇人でした。

代表作品

  • 『あるアナーキストの事故死』
  • Non si paga! Non si paga!

代表作紹介 — 『あるアナーキストの事故死』(代表作)

警察の取り調べ中にアナーキストが不審死した実際の事件を題材に、精神病者を装う人物が警察署に入り込んで事件を調べる過程で、公権力の隠蔽と偽善を痛烈に風刺した喜劇です。

📖

1998年 · ジョゼ・サラマーゴ(José Saramago)

ポルトガル

選定理由

想像力と憐れみ、アイロニーに支えられた寓話を通して、とらえがたい現実を絶えず新たに理解させてくれた功績が評価され、ポルトガル語圏から初めて受賞しました。

作家略歴

ポルトガルの小説家で、長く続く文体と独特な句読点の使い方に寓話的な想像力を組み合わせ、人間社会の不条理を辛辣に風刺しました。

代表作品

  • 『白の闇』
  • Memorial do Convento

代表作紹介 — 『白の闇』(代表作)

ある都市で原因不明の失明が伝染病のように広がり、隔離された人々のあいだで繰り広げられる暴力と野蛮を通して、文明の秩序がいかにたやすく崩壊しうるかを寓話的に描いた小説です。

📖

1999年 · ギュンター・グラス(Günter Grass)

ドイツ

選定理由

軽快でありながら暗い寓話によって、歴史の忘れられた顔を描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ドイツの小説家で、ナチズムと第二次世界大戦をめぐるドイツ社会の記憶と忘却を、グロテスクな想像力と風刺によって扱いました。

代表作品

  • 『ブリキの太鼓』
  • 『猫と鼠』

代表作紹介 — 『ブリキの太鼓』(代表作)

3歳のときに自ら成長を止めると決めた少年オスカルが、ブリキの太鼓を叩き、ガラスを砕く叫び声を上げながら、ナチスの台頭と戦争、戦後ドイツ社会を奇怪なまなざしで証言する小説です。

📖

2000年 · 高行健(ガオ・シンジエン)(Gao Xingjian)

フランス(中国生まれ)

選定理由

普遍的な妥当性と苦い洞察、言語的な独創性を備えた作品世界によって、中国語の小説と戯曲に新たな道を開いた功績が評価され、中国語圏から初めて受賞しました。

作家略歴

中国で生まれフランスへ亡命した小説家・劇作家・画家で、中国当局の検閲を逃れてパリに定住したのち、フランス国籍を取得しました。

代表作品

  • 『霊山』
  • 『ある男の聖書』

代表作紹介 — 『霊山』(代表作)

がんと誤診された語り手が中国南部の奥地を旅しながら出会う人々や伝説、自然を通して、個人と集団、自己のアイデンティティについての思索を自由な形式で綴った自伝的小説です。

2001〜2025年

📖

2001年 · V・S・ナイポール(V. S. Naipaul)

イギリス/トリニダード・トバゴ

選定理由

洞察に満ちた語りと清廉な観察力を統合し、隠された歴史の存在を直視させる作品が評価され受賞しました。

作家略歴

トリニダード・トバゴのインド系移民の家庭に生まれ、イギリスで活動した小説家で、ポストコロニアル社会のアイデンティティの混乱と幻滅を冷徹なまなざしで描きました。

代表作品

  • 『ビスワス氏の家』
  • 『暗い河』

代表作紹介 — 『ビスワス氏の家』(代表作)

トリニダードのインド系移民ビスワスが、生涯他人の家を転々とした末に、ようやく自分だけのみすぼらしい家を手に入れるまでの苦労多き人生を通して、植民地の移民の尊厳への渇望を描いた小説です。

📖

2002年 · ケルテース・イムレ(Imre Kertész)

ハンガリー

選定理由

歴史の野蛮な恣意に抗して、個人のもろい体験を守り抜いた著作が評価され受賞しました。

作家略歴

ハンガリーのユダヤ系作家で、10代のころアウシュヴィッツとブーヘンヴァルトの強制収容所に収容された自らの体験をもとにした小説でよく知られています。

代表作品

  • 『運命ではなく』
  • A kudarc

代表作紹介 — 『運命ではなく』(代表作)

ハンガリーの15歳の少年がアウシュヴィッツとブーヘンヴァルトへ連行されて経験する凄惨な日常を、感傷や怒りを排した少年の淡々としたまなざしで語り、その抑制された文体によってかえってホロコーストの非人間性をあらわにした自伝的小説です。

📖

2003年 · J・M・クッツェー(J. M. Coetzee)

南アフリカ共和国

選定理由

アウトサイダーの驚くべき関わりを、さまざまな姿で描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

南アフリカ共和国出身で、のちにオーストラリアに帰化した小説家で、抑制された冷徹な文体によってアパルトヘイト体制と植民地主義、人間の脆さを扱いました。

代表作品

  • 『マイケル・K』
  • 『恥辱』
  • 『夷狄を待ちながら』

代表作紹介 — 『恥辱』(代表作)

教え子との不適切な関係により大学を解雇された中年教授が、娘の暮らす田舎の農場に身を寄せるものの、人種間の暴力の被害者となる娘を前にして、アパルトヘイト後の南アフリカ社会で逆転した権力関係に向き合うことになる小説です。

📖

2004年 · エルフリーデ・イェリネク(Elfriede Jelinek)

オーストリア

選定理由

小説と戯曲における声と反声の音楽的な流れによって、社会の決まり文句の不条理さとその抑圧する力を、比類のない言語的情熱であらわにした功績が評価され受賞しました。

作家略歴

オーストリアの小説家・劇作家で、女性への抑圧と暴力、大衆文化の偽善を、挑発的で実験的な文体によって辛辣に批判しました。

代表作品

  • 『ピアニスト』
  • 『したい気分』

代表作紹介 — 『ピアニスト』(代表作)

抑圧的な母親のもとで育った中年のピアノ教師エリカが、若い教え子との関係の中で、抑え込んできた性的欲望と自己破壊的な衝動を暴力的に噴出させていく過程を冷酷に描いた小説です。

🎭

2005年 · ハロルド・ピンター(Harold Pinter)

イギリス

選定理由

日常のおしゃべりの下に潜む断崖をあらわにし、抑圧の行われる密室へと否応なく踏み込ませる戯曲が評価され受賞しました。

作家略歴

イギリスの劇作家で、日常的な会話の中に隠された沈黙と脅威、権力関係の緊張を込めた独特の台詞術によって、「ピンタレスク」という形容詞が生まれるほど独自の劇作スタイルを確立しました。

代表作品

  • 『誕生日パーティ』
  • 『管理人』

代表作紹介 — 『誕生日パーティ』(代表作)

みすぼらしい下宿屋に身を潜めていた男が、正体のわからない二人の訪問者から誕生日パーティという名目で尋問と脅迫を受け、次第に崩れていく過程を、説明のない不安で満たした戯曲です。

📖

2006年 · オルハン・パムク(Orhan Pamuk)

トルコ

選定理由

故郷の街のメランコリックな魂を探し求める旅の中で、文明の衝突と交錯を表す新たな象徴を見いだした功績が評価され受賞しました。

作家略歴

トルコ・イスタンブール出身の小説家で、東洋と西洋の境界に位置する街イスタンブールのアイデンティティと歴史を題材に、トルコ文学を世界に知らしめました。

代表作品

  • 『わたしの名は赤』
  • 『無垢の博物館』
  • 『雪』

代表作紹介 — 『わたしの名は赤』(代表作)

16世紀オスマン帝国の細密画家たちのあいだで殺人事件が起こり、西洋式の遠近法による画風の流入をめぐる対立と愛、芸術観の衝突を、複数の語り手の声で解き明かしていく推理小説仕立ての作品です。

📖

2007年 · ドリス・レッシング(Doris Lessing)

イギリス

選定理由

女性の経験を叙事詩として描いた作家として、懐疑と情熱、ビジョンの力によって分断された文明をつぶさに見つめた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

旧イギリス領南ローデシア(現ジンバブエ)で育ったのちイギリスへ移住した小説家で、女性の自己実現と政治、心理的崩壊の問題を幅広く扱いました。

代表作品

  • 『草は歌っている』
  • 『黄金のノート』

代表作紹介 — 『黄金のノート』(代表作)

作家アンナが、人生の異なる領域(政治・心理・恋愛・文学)を4冊のノートに別々に記録していたのを、やがて1冊の黄金のノートへと統合していく過程を通して、女性の自己の分裂と統合を描いた実験的な小説です。

📖

2008年 · J・M・G・ル・クレジオ(J. M. G. Le Clézio)

フランス/モーリシャス

選定理由

新たな出発と詩的な冒険、官能的な恍惚の作家として、また支配的な文明の内と外、その根底を探究した人類学者としての側面が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスとモーリシャスの二重国籍を持つ小説家で、西洋文明への批判的なまなざしとともに、アフリカやアメリカ先住民の文化への関心を作品全体に溶け込ませました。

代表作品

  • 『砂漠』
  • 『調書』

代表作紹介 — 『砂漠』(代表作)

北アフリカの砂漠の遊牧民の昔の物語と、その末裔である若い女性がフランスへ移り住んで味わう疎外とを交差させ、植民地主義が破壊した遊牧文明への郷愁と近代文明への批判をあわせて描いた小説です。

📖

2009年 · ヘルタ・ミュラー(Herta Müller)

ドイツ/ルーマニア

選定理由

詩の凝縮された密度と散文の率直さによって、奪われた人々の風景を描き出した功績が評価され受賞しました。

作家略歴

ルーマニアのドイツ系少数民族出身の作家で、チャウシェスク独裁下での監視と抑圧を経験したのち、西ドイツへ亡命しました。

代表作品

  • 『息のブランコ』
  • Niederungen

代表作紹介 — 『息のブランコ』(代表作)

第二次世界大戦直後、ルーマニアのドイツ系の青年がソ連の強制労働収容所へ連行され、5年間にわたる飢えと強制労働を耐え抜く過程を、実際の生存者の証言をもとに詩的な言葉で再構成した小説です。

📖

2010年 · マリオ・バルガス=リョサ(Mario Vargas Llosa)

ペルー/スペイン

選定理由

権力構造の地図を描き出したことと、個人の抵抗・反逆・敗北を鋭く形象化したことが評価され受賞しました。

作家略歴

ペルーの小説家で、ラテンアメリカ文学のブームを牽引した代表的作家の一人であり、精緻な物語構造の実験とともに、ラテンアメリカの独裁権力を正面から批判しました。

代表作品

  • 『都会と犬ども』
  • 『チボの狂宴』

代表作紹介 — 『チボの狂宴』(代表作)

ドミニカ共和国の独裁者トルヒーヨの暗殺計画に加わった者たちと、のちにその時代を回想する被害女性の視点を交差させ、独裁権力の暴虐とそれが個人の人生に残したトラウマを描いた小説です。

📜

2011年 · トーマス・トランストロンメル(Tomas Tranströmer)

スウェーデン

選定理由

凝縮された透明なイメージを通して、現実への新たな通路を開いた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

スウェーデンの詩人・心理学者で、わずかな抑制された言葉から正確かつ神秘的なイメージを紡ぎ出す凝縮された詩風で、スカンディナヴィアの現代詩を代表しました。

代表作品

  • 17 dikter
  • 『悲しみのゴンドラ』

代表作紹介 — 17 dikter(代表作)

23歳で刊行した第一詩集で、自然のささやかな風景の中に一瞬あらわれる存在の神秘を抑制されたイメージでとらえ、その後生涯にわたって続く独創的な詩風の原型を示した作品です。

📖

2012年 · 莫言(モー・イエン)(Mo Yan)

中国

選定理由

幻覚的リアリズムによって、民話と歴史、現代を融合させた功績が評価され受賞しました。

作家略歴

中国山東省の農村出身の小説家で、中国現代史の激動を、故郷の村を舞台にした民話的な想像力と結びつけ、強烈で感覚的な文体で描きました。

代表作品

  • 『赤い高粱』(紅高粱家族)
  • 『蛙鳴』
  • 『白檀の刑』

代表作紹介 — 『赤い高粱』(代表作)

日中戦争期の中国山東省のコーリャン畑の村を舞台に、語り手の祖母と祖父が経験した愛と抗日ゲリラ戦、暴力の記憶を、孫の世代の視点から語り伝える大河小説です。

📖

2013年 · アリス・マンロー(Alice Munro)

カナダ

選定理由

現代短編小説の名手であるとの評価が認められ受賞しました。

作家略歴

カナダの小説家で、生涯にわたって長編ではなく短編小説だけにこだわり、カナダ・オンタリオ州の小さな町に暮らす女性たちの生を精緻な心理描写で描いて「カナダのチェーホフ」と呼ばれました。

代表作品

  • 『ディア・ライフ』
  • 『イラクサ』(Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage)

代表作紹介 — 『ディア・ライフ』(代表作)

オンタリオ州の小さな町で過ごした幼年時代と母との関係を振り返る自伝的な短編を中心に、平凡に見える女性たちの人生に潜む決定的な瞬間を繊細にとらえた短編集です。

📖

2014年 · パトリック・モディアノ(Patrick Modiano)

フランス

選定理由

最もとらえがたい人間の運命を呼び起こし、ドイツ占領期の生活世界をあらわにした記憶の芸術が評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの小説家で、自身が生まれる前のナチス・ドイツ占領期のパリを舞台に、正体のはっきりしない人物たちの痕跡を追う小説を繰り返し発表しました。

代表作品

  • 『暗いブティック通り』
  • Dora Bruder

代表作紹介 — 『暗いブティック通り』(代表作)

記憶喪失に陥った探偵が失われた自分の過去を求めて、ナチス占領期のパリに残るおぼろげな痕跡を追う物語で、アイデンティティの不確かさと占領期の暗い記憶を探偵小説の形式で描いた作品です。

📚

2015年 · スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(Svetlana Alexievich)

ベラルーシ

選定理由

私たちの時代の苦しみと勇気を刻んだ記念碑的な多声的(ポリフォニック)著作が評価され受賞しました。

作家略歴

ベラルーシのジャーナリスト・ノンフィクション作家で、数百人の証言を聞き取って編み上げる独自のドキュメンタリー文学の手法によって、ソ連体制の裏側を記録しました。

代表作品

  • 『戦争は女の顔をしていない』
  • 『チェルノブイリの祈り』

代表作紹介 — 『チェルノブイリの祈り』(代表作)

1986年のチェルノブイリ原発事故を直接経験した消防士の妻、避難民、除染作業員など数百人の声をそのまま聞き書きして編んだノンフィクションで、放射能災害が普通の人々の暮らしをいかに破壊したかを生々しく証言しています。

🎤

2016年 · ボブ・ディラン(Bob Dylan)

アメリカ

選定理由

偉大なアメリカの歌の伝統の中に新たな詩的表現を創造した功績が評価され、ポピュラー音楽のミュージシャンとして初めて受賞しました。

作家略歴

アメリカのシンガーソングライターで、1960年代のフォーク・ロック音楽に詩的で社会批判的な歌詞を結びつけ、ポピュラー音楽を文学の域にまで高めたと評価されましたが、ノーベル賞の受賞そのものをめぐっては文学界の内外で論争が起こりました。

代表作品

  • Blowin' in the Wind
  • Like a Rolling Stone
  • The Times They Are a-Changin'
  • Highway 61 Revisited

代表作紹介 — Like a Rolling Stone(代表作)

かつて裕福で安穏と暮らしていた女性がすべてを失って路上に放り出された境遇を冷笑的に歌い、「ひとりきりってどんな気分だい」と問い返す歌詞によって、ポピュラー音楽の歌詞に文学的な象徴と痛烈な社会批判を込めた曲です。

📖

2017年 · カズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)

イギリス(日本生まれ)

選定理由

強い感情の力を持つ小説群を通して、世界とつながっているという私たちの幻想的な感覚の下にある深淵をあらわにした功績が評価され受賞しました。

作家略歴

長崎で生まれ、5歳のときにイギリスへ移住した小説家で、抑制された「信頼できない語り手」による回想体の文章を通して、記憶と自己欺瞞の問題を探究しました。

代表作品

  • 『日の名残り』
  • 『わたしを離さないで』

代表作紹介 — 『日の名残り』(代表作)

生涯をイギリス貴族の屋敷の執事として捧げてきたスティーブンスが、晩年に短い旅に出て過去を回想するうちに、仕えた主人の親ナチス的な行動と、逃してしまった愛に遅まきながら向き合うことになる小説です。

📖

2018年 · オルガ・トカルチュク(Olga Tokarczuk)

ポーランド

選定理由

百科全書的な情熱によって、境界を越えることを生の一つのかたちとして表現した物語的想像力が評価され受賞しました。

作家略歴

ポーランドの小説家で、心理学を専攻した経歴を背景に、断片的で百科全書的な構成の中で神話と歴史、旅、エコロジカルな想像力を自在に行き来する小説を書いています。

代表作品

  • 『逃亡派』
  • 『プラヴィエクとそのほかの時代』

代表作紹介 — 『逃亡派』(代表作)

旅と移動、身体の解剖を題材にした100あまりの短い物語と省察をモザイクのように編み上げ、定住よりも絶え間ない移動と放浪の中に自由を見いだす現代人の生を描いた実験的な小説です。

📖

2019年 · ペーター・ハントケ(Peter Handke)

オーストリア

選定理由

言語的な独創性によって人間の経験の周縁と特異性を探究した影響力ある作品が評価され受賞しましたが、ユーゴスラビア紛争の際にセルビアを擁護した政治的言動によって大きな論争を呼びました。

作家略歴

オーストリアの小説家・劇作家で、初期には言語と演劇の慣習そのものを解体する実験劇で注目され、その後は内面の心理を見つめる散文へと転じました。

代表作品

  • 『観客罵倒』
  • 『ペナルティキックを受けるゴールキーパーの不安』

代表作紹介 — 『観客罵倒』(代表作)

伝統的な筋や登場人物を持たず、俳優たちが舞台上から直接観客に向かって言語の慣習性を暴き挑発するという型破りな形式で、演劇という形式そのものに疑問を投げかけた実験劇です。

📜

2020年 · ルイーズ・グリュック(Louise Glück)

アメリカ

選定理由

飾り気のない美しさによって個人の存在を普遍的なものとする、紛れもない詩的な声が評価され受賞しました。

作家略歴

アメリカの詩人で、神話と自然のイメージを借りて、喪失と哀悼、家族関係の傷を抑制され洗練された言葉に凝縮した抒情詩を長年にわたり発表しました。

代表作品

  • Ararat
  • 『野生のアイリス』

代表作紹介 — 『野生のアイリス』(代表作)

庭に咲く花、庭師、神のあいだで声を行き来させながら、冬を耐え抜いて再び咲く植物の生命力に、人間の苦しみと回復、存在への思索を重ね合わせた連作詩集です。

📖

2021年 · アブドゥルラザク・グルナ(Abdulrazak Gurnah)

イギリス(タンザニア生まれ)

選定理由

植民地主義の影響と、文化と大陸のはざまに置かれた難民の運命に対する、妥協のない、そして思いやりに満ちた洞察が評価され受賞しました。

作家略歴

タンザニア・ザンジバル出身で、若くしてイギリスへ亡命した小説家で、東アフリカの植民地の歴史と、移民・難民のアイデンティティの喪失を扱いました。

代表作品

  • 『楽園』
  • By the Sea

代表作紹介 — 『楽園』(代表作)

20世紀初頭のドイツ領東アフリカを舞台に、借金のかたとして商人に引き渡された少年ユスフが隊商に従って内陸を旅しながら、植民地支配の影と無垢の喪失を経験していく成長小説です。

📖

2022年 · アニー・エルノー(Annie Ernaux)

フランス

選定理由

個人的な記憶の根源と疎外、集団的な抑圧を暴き出すうえで示した勇気と臨床的な鋭さが評価され受賞しました。

作家略歴

フランスの作家で、感情を排した乾いた抑制的な文体によって、自らの階級移動や中絶、両親の死などの個人史を社会学的なまなざしで記録する「オートフィクション(自伝的小説)」を切り開きました。

代表作品

  • 『場所』
  • 『シンプルな情熱』
  • Les Années

代表作紹介 — Les Années(代表作)

1940年代から2000年代まで自らが生きた時代の写真や物、流行語、社会的な出来事を、「わたし」という一人称ではなく「彼女」という三人称で叙述し、一人の人生を時代全体の集団的記憶に重ね合わせた自伝的小説です。

🎭

2023年 · ヨン・フォッセ(Jon Fosse)

ノルウェー

選定理由

言葉にできないものに声を与えた革新的な戯曲と散文が評価され受賞しました。

作家略歴

ノルウェーの劇作家・小説家で、反復的で詩的な台詞と沈黙を通して、人間存在の根源的な不安と信仰の問題を掘り下げ、「新しいベケット」と評されました。

代表作品

  • Andvake
  • Trilogien
  • Septologien

代表作紹介 — Septologien(七部作)(代表作)

老年の画家アスレが、名前も生年月日も自分と同じもう一人のアスレという人物と出会いながら、芸術と信仰、孤独な人生を反復的で瞑想的な文章でたどり直していく7部構成の長編小説です。

📖

2024年 · ハン・ガン(韓江 / Han Kang)

韓国

選定理由

「歴史的トラウマに向き合い、人間の生のもろさをあらわにする強烈な詩的散文」が評価され、韓国人として初めて、またアジア人女性として初めて受賞しました。

作家略歴

韓国の小説家で、光州や済州など韓国現代史の暴力を、個人の身体と感覚を通して見つめる抒情的で抑制された文体により国際的な注目を集めました。

代表作品

  • 『菜食主義者』
  • 『少年が来る』
  • 『別れを告げない』
  • 『すべての、白いものたちの』

代表作紹介 — 『菜食主義者』(代表作(2016年ブッカー国際賞受賞作))

平凡な主婦ヨンへがある日夢を見たのを境に突然肉食を拒み、自ら植物になろうとしていく姿を、夫、義兄、姉の三人の視点で交互に語りながら、暴力的な世界への極端な拒絶と人間存在のもろさを描いた連作小説です。

📖

2025年 · クラスナホルカイ・ラースロー(László Krasznahorkai)

ハンガリー

選定理由

黙示録的な恐怖のただ中にあっても芸術の力を再確認させる、説得力に満ちた先見的な作品世界が評価され受賞しました。

作家略歴

ハンガリーの小説家で、句読点をほとんど使わず数ページにわたって続く極端に長い文章と終末論的な世界観でよく知られ、映画監督タル・ベーラとの協働でも有名です。

代表作品

  • 『サタンタンゴ』
  • 『抵抗の憂鬱』

代表作紹介 — 『サタンタンゴ』(代表作)

集団農場が解体されたハンガリーの貧しい村に、死んだと思われていた詐欺師イリミアーシュが戻ってきて村人たちを新たな希望で惑わし、ついには破滅へと導く過程を、タンゴのステップのように前後を行き来する循環構造の文章で描いた小説です。

ノーベル文学賞は「作品」ではなく「作家」に贈られる賞です

ノーベル文学賞を特定の小説や詩集1冊に与えられる賞だと誤解している方も多いのですが、原則としてノーベル文学賞は 受賞者の作品世界全体に対して授与されます。実際、ノーベル委員会の公式な選定理由(citation)で 具体的な作品名が直接挙げられたのは、トーマス・マンの『ブッデンブローク家の人々』やヘミングウェイの『老人と海』のように ごく一部にすぎません。このページで各受賞者ごとに紹介している「代表作」は、選定理由に明記された作品である場合もあれば、 そうでない場合には作家の作品世界を代表する作品を選んで紹介したものですので、ご留意ください。どちらに当たるかは 各カードに表示しています。

受賞者がいなかった年もあります

ノーベル文学賞は、二度の世界大戦などの理由により、計7つの年(1914, 1918, 1935, 1940, 1941, 1942, 1943年)には受賞者が 出ませんでした。また、1904年、1917年、1966年、1974年には2人の作家が共同受賞しています。 このページでは受賞者がいる年のみをカードにまとめています。

ご利用上の注意

このページはノーベル文学賞の受賞者と代表作を紹介する教育用コンテンツです。選定理由はノーベル委員会の公式な 選定理由をもとに要旨をわかりやすく言い換えたもの(一部の著名な例を除き、公式文言の直訳ではありません)で、作家の略歴と 作品のあらすじは一般に知られている事実と評価をもとに簡潔にまとめました。作品のあらすじは原作の筋を参考に独自に要約した 内容であり、実際の作品の文体やニュアンスに代わるものではありませんので、興味を持った作品はぜひ原作をお読みください。

よくある質問

なぜ「選定理由に明記された作品」がある作家とない作家がいるのですか?

ノーベル文学賞は特定の作品ではなく、作家の作品世界全体に授与されるのが原則です。そのため大多数の受賞者は選定理由に特定の書名が明記されておらず、その場合このページではその作家を代表する作品を選んで「代表作」として紹介しています。反対に、選定理由で特定の作品が直接言及されている場合(トーマス・マン、ヘミングウェイ、クヌート・ハムスンなど)には、その旨を表示しています。

ノーベル文学賞を辞退した、または受け取れなかった受賞者はいますか?

はい。1964年、ジャン=ポール・サルトルはあらゆる公的な賞を拒むという信念に従って、自ら受賞を辞退しました。1958年のボリス・パステルナークと1970年のアレクサンドル・ソルジェニーツィンは、ソ連当局の圧力によって受賞を辞退させられたり、授賞式に出席できなかったりしました。

韓国人の受賞者が初めて出たのはいつですか?

2024年、韓江(ハン・ガン)が『菜食主義者』『少年が来る』などの作品で、韓国人として初めて、またアジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞しました。選定理由は「歴史的トラウマに向き合い、人間の生のもろさをあらわにする強烈な詩的散文」でした。