ヘンリー・マレーの心理的欲求理論

人間の動機を20以上の心理的欲求の組み合わせで説明しようとした、ヘンリー・マレーの理論を紹介します。

自律欲求(Need for Autonomy)

他者の統制や干渉から離れて、独立して行動し決定しようとする欲求です。規則や権威にとらわれず自分で判断し自由に動こうとする傾向として現れ、この欲求が強いほど組織生活より独立した活動を好む傾向につながるとされています。

秩序欲求(Need for Order)

周囲の環境や物事を整然とした体系的な状態に保とうとする欲求です。整理整頓、計画立案、規則的な手順を好む傾向として現れ、この欲求が強い人は予測可能で整った環境でより快適さを感じるとされています。

誇示欲求(Need for Exhibition)

他者に自分を示し、関心や注目を集めようとする欲求です。印象的な姿を見せたり話の中心に立ちたいと思う傾向として現れ、人前で自分を表現する活動から満足感を得るとされています。

依存欲求(Need for Succorance)

他者から助けや保護、共感、慰めを受けたいと思う欲求です。困難に直面したとき自分で解決するより誰かに頼って安心感を得ようとする傾向として現れ、愛着や依存的な対人関係パターンと関連づけて説明されることがよくあります。

養護欲求(Need for Nurturance)

弱い立場や困難な状況にある相手を世話し助けようとする欲求です。同情心を持って他者を気遣う行動として現れ、依存欲求と対をなす相互補完的な欲求として一緒に扱われることが多くあります。

屈従欲求(Need for Abasement)

自分の過ちを認めて従い、時には非難や罰を受け入れようとする欲求です。対立する場面で自分を低くして相手に合わせようとする傾向として現れ、行き過ぎると自己卑下的な態度につながることがあります。

理解欲求(Need for Understanding)

問いを立てて分析し、世界の仕組みを論理的に理解しようとする欲求です。抽象的な概念を扱い理論を組み立てることに知的な満足を得る傾向として現れ、後の「認知欲求(Need for Cognition)」の概念にも通じるとされています。

遊戯欲求(Need for Play)

特に目的を持たず、楽しさや喜びそのもののために活動しようとする欲求です。緊張を解いて笑い楽しむ活動を好む傾向として現れ、義務から離れて遊び自体を目的とする態度と関連します。

失敗回避欲求(Need for Infavoidance)

失敗や屈辱、恥をかく可能性のある状況そのものを避けようとする欲求です。失敗のリスクがある挑戦を避け、安全な選択をしようとする傾向として現れ、行き過ぎると新しい試み自体を回避する態度につながることがあります。

達成欲求(Need for Achievement)

困難なことをやり遂げ、高い水準を目指し、他者を上回りたいと思う欲求です。目標を立てて粘り強く取り組み、自分の能力を試せる課題を好む傾向として現れます。後にマクレランドが3つの中心的欲求の1つに選んだ欲求でもあります。

親和欲求(Need for Affiliation)

他者と親しい関係を築き、好意を寄せ合い、集団の一員でありたいと思う欲求です。友人と過ごすことや協力して取り組むことに満足を感じやすく、対立を避けようとする傾向と結び付いて語られることもあります。

支配欲求(Need for Dominance)

他者に影響を及ぼし、指示し、環境を自分の意図でコントロールしようとする欲求です。リーダーの役割を引き受けやすい傾向として現れ、行き過ぎると周囲に対して支配的な振る舞いになることがあります。マクレランドの権力欲求と近い概念です。

攻撃欲求(Need for Aggression)

障害を力で乗り越え、相手を非難したり打ち負かしたりしようとする欲求です。言葉の上での批判や競争的な行動として現れることが多く、必ずしも身体的な暴力を意味するわけではありません。

尊敬欲求(Need for Deference)

自分より優れていると認めた相手を称賛し、従い、支持しようとする欲求です。指導者や専門家の意見を素直に受け入れる姿勢として現れ、屈従欲求とは違い、自分を貶めるのではなく相手を高く評価する点が特徴です。

危害回避欲求(Need for Harmavoidance)

痛みや身体的な危険、傷害を避けようとする欲求です。安全な選択を好み、危険を伴う活動を避ける傾向として現れます。失敗や恥を避ける失敗回避欲求とは別の欲求として区別されています。

感覚欲求(Need for Sentience)

感覚的な経験を求め、それを味わおうとする欲求です。音楽、色彩、味、肌触りなどの心地よさを楽しむ傾向として現れ、芸術や食事に関わる活動と結び付けて説明されます。

欲求と環境圧力(プレス)の組み合わせ

マレーは、人の欲求だけでなく、環境が人に及ぼす圧力を「プレス(press)」と呼んで併せて考えました。同じ欲求を持つ人でも、環境から受ける働きかけによって行動が変わるため、行動は欲求とプレスの相互作用から理解するべきだと考えたのです。この考え方は、人と状況の相互作用を重視する後の性格心理学にも通じます。

マレーの心理的欲求理論とは

アメリカの心理学者ヘンリー・マレーは、人間の行動が空腹や渇きのような生理的欲求だけでなく、達成したい、認められたい、他者を助けたいといった心理的欲求からも生まれると考えました。彼はこうした心理的欲求を「psychogenic needs」と名付け、自律、秩序、誇示、理解など20以上の詳細な欲求リストを提示しました。人によってこれらの欲求の強さと組み合わせが異なるため、それぞれ違った性格や行動パターンが現れると説明しました。

どのように測定したか、そしてマクレランドによる単純化

マレーはこの理論を測定するため、クリスティアナ・モーガンとともに主題統覚検査(TAT、Thematic Apperception Test)を開発しました。曖昧な絵を見せてそれについての物語を作らせると、その物語の中に回答者自身の欲求が投影されて現れるという投影法の検査で、今日でも臨床や研究の場面で限定的に活用されています。マレーの弟子だったデイヴィッド・マクレランドは、後にこの膨大な欲求リストの中から組織・職場の文脈で特に重要な達成・権力・親和の3つの欲求だけを取り出し、別の理論として発展させました。

マレーの20の顕在的欲求を一覧で見る

マレーが挙げた主な顕在的欲求は、屈従、達成、親和、攻撃、自律、反作用、防衛、尊敬、支配、誇示、危害回避、失敗回避、養護、秩序、遊戯、拒絶、感覚、性、依存、理解の20です。このページの項目は、そのうち性格理解の議論でよく引用されるものを選んでいます。リストの全体像を知ると、各欲求が対になったり対立したりしていることが見えてきます。たとえば自律と尊敬、依存と養護、親和と拒絶は反対の方向を向いた組み合わせです。

欲求を測る道具:TATとEPPS

TATは約30枚の曖昧な絵を見せて物語を作らせ、その内容から欲求を読み取る検査です。結果の解釈は検査者の技量に左右されるため、信頼性をめぐる議論が続いており、診断を単独で決めるものではなく、面接などと組み合わせる補助的な道具として扱われます。一方、アレン・エドワーズはマレーの理論に基づき、質問紙形式のEPPS(Edwards Personal Preference Schedule)を作りました。これは15の欲求を測定します。いずれも、自分で結果を解釈して性格を決めつけるためのものではなく、専門家の指導のもとで使うものです。

この理論をどう活かすか

マレーの理論は、人の行動を1つの特性ではなく、複数の欲求の組み合わせとその強さの違いとして眺める見方を与えてくれます。職場の動機づけを考えるときは、達成、親和、支配の観点で人を見ると役立ちますし、人間関係の摩擦を、自律と依存のように食い違う欲求のぶつかり合いとして理解することもできます。ただし、欲求の分類は仮説であり、人を分類して決めつけるラベルにはならないことを忘れないでください。性格やメンタルヘルスに関する心配事は、専門家に相談してください。

よくある質問

マレーの欲求は正確には何種類ありますか?

マレーは1938年の著書で20以上の心理的欲求リストを提示しており、その後研究者によってリストの整理の仕方が多少異なる場合もあります。このページでは性格理解のためによく引用される代表的な欲求を取り上げて紹介しています。

これらの欲求は互いに矛盾することもありますか?

はい。マレーは欲求同士が衝突したり相反したりすることがあると考えました。例えば自律欲求と依存欲求は互いに逆方向に働くことがあり、同じ人の中でも状況によって異なる欲求が優勢になることがあると説明しました。

マレーの理論は今でも使われていますか?

理論そのものをそのまま使う研究は多くありませんが、欲求や動機の分類、TATのような投影法、達成動機の研究など、後の心理学に大きな影響を残しています。人と環境の相互作用を重視する見方は、現代の性格心理学にも引き継がれています。

顕在的欲求と潜在的欲求とは何ですか?

マレーは、行動にはっきり表れる欲求を顕在的、空想や夢の中にしか現れない欲求を潜在的と呼んで区別しました。同じ欲求が、ある人では行動に出て、別の人では抑えられて空想に留まることがあると考えたのです。

このページの欲求リストで自分の性格を診断できますか?

できません。ここで紹介しているのは理論の概要であり、診断ツールではありません。自分の傾向を知りたいなら、信頼できる専門家による検査と面談が適切です。