ギリシャ・ローマ神話の英雄事典

神々の物語に劣らず魅力的な、ギリシャ・ローマ神話の英雄たちを紹介します。それぞれの冒険の筋書きに加え、どの作品に登場するのか、ローマではどう呼ばれたのかも確認していきましょう。

ヘラクレス(Heracles / Hercules)

ギリシャ神話の代表的な英雄で、ローマ名はヘルクレスです。ゼウスと人間の女性アルクメネの間に生まれた半神半人で、ゼウスの妻ヘラに憎まれました。ヘラが送った狂気のなかで家族を手にかけてしまい、その償いとして、ミュケナイ王エウリュステウスに仕えて十二の功業を成し遂げます。ネメアのライオン退治、レルネのヒュドラ討伐、アウゲイアス王の家畜小屋の掃除、冥界の番犬ケルベロスの捕獲などが有名です。最終的には、毒の染みたシャツによって苦しんで死に、神々の仲間入りをしたと伝えられます。

ペルセウス(Perseus)

ゼウスと王女ダナエの間に生まれた英雄です。見た者を石に変えるゴルゴンの一人、メドゥーサの首を取ることを命じられ、アテナから磨かれた盾を、ヘルメスからは翼のあるサンダルなどを授かって成し遂げます。盾に映った姿を見ながら首を切り落としたため、直接見て石になることを避けられました。帰路で海の怪物の生け贄にされかけていたアンドロメダを救い、妻に迎えます。

テセウス(Theseus)

アテネの伝説的な王で、クレタ島の迷宮に潜む半人半牛の怪物ミノタウロスを倒した英雄です。アテネは毎回、若者を生け贄として送らなければならず、テセウスは自らその一員となって出発しました。クレタの王女アリアドネが渡した糸玉をたどって迷宮から脱出したことで、「アリアドネの糸」は複雑な問題を解く手がかりの比喩になっています。帰路の船で、成功の合図の白い帆に替え忘れたため、父王アイゲウスが海に身を投げたという悲劇も語られます。

イアソン(Jason)

金羊毛を求めて、アルゴ号の遠征隊を率いた英雄です。叔父ペリアスに奪われた王位を取り戻す条件として、遠方のコルキスから金羊毛を持ち帰るよう命じられ、ヘラクレスや詩人オルフェウスなど多くの英雄とともに船出します。コルキスの王女で魔術に通じたメデイアの助けで任務を果たしますが、後に二人の関係は悲劇的な結末を迎えます。この冒険はアポロニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』などで語られています。

オデュッセウス(Odysseus / Ulysses)

ローマ名はウリクセスで、知略に優れた英雄です。トロイア戦争では、巨大な木馬に兵士を隠してトロイアを陥落させた策で知られます。戦後は故郷イタケーへの帰還に10年を要し、一つ目の巨人キュクロプスのポリュペモス、魔女キルケ、セイレーンの歌、スキュラとカリュブディスなどの試練に出会います。この旅を描いたのがホメロスの『オデュッセイア』で、妻ペネロペと息子テレマコスが待つ故郷に戻るまでが描かれます。

アキレウス(Achilles)

トロイア戦争で最強の戦士とされる英雄で、ホメロスの『イリアス』の主人公です。母テティスが赤子のアキレウスをステュクス川に浸して不死身にしたものの、手でつかんでいたかかとだけが弱点として残ったという話が有名です。ただし、この逸話はホメロスの作品には出てこず、後世のスタティウスなどの作品で語られるものです。彼は、トロイアの王子ヘクトルを倒した後、かかとに矢を受けて命を落としたと伝えられます。

アイネイアス(Aeneas)

トロイアの王族で、女神アフロディテ(ローマ名ウェヌス)の息子とされる英雄です。陥落したトロイアから、父や息子を連れて逃れ、イタリアに渡ってローマ人の祖となったと、ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』で語られます。ギリシャの英雄が個人の武勇を競うのに対し、アイネイアスは義務と運命に従う人物として描かれ、ローマ的な価値観を象徴しています。

ベレロポン(Bellerophon)

コリントス出身の英雄で、有翼の馬ペガサスを乗りこなし、火を吐く怪物キマイラを退治したとされます。数々の武勇で名声を得ますが、傲慢になって神々の領域に飛び上がろうとし、ゼウスの怒りを買って転落したという話があります。人の分を超えた野心への戒めとして語られる物語です。

オルフェウス(Orpheus)

竪琴の名手で、アルゴ号の遠征隊にも加わったとされる詩人です。亡くなった妻エウリュディケを連れ戻すために冥界へ下り、振り返ってはならないという条件を破ってしまい、妻を失う悲劇で知られます。武力ではなく音楽の力で困難に挑む点が、他の英雄と異なります。

アタランテ(Atalanta)

足の速さと狩りの腕で知られる女性の英雄です。カリュドンの猪狩りに参加した数少ない女性として語られ、結婚の条件として求婚者との競走を課したという話もあります。伝承によって細部が異なり、アルゴ号の遠征隊に加わったとする説もあります。英雄が男性だけではなかったことを示す人物です。

神話の英雄は神とどう違うのですか?

ギリシャ・ローマ神話の英雄の多くは、神と人間の間に生まれた半神半人か、神々の助けと試練を受ける人間です。不死の神々と異なり、英雄はいつか死ぬ限界を持っていて、そのために勇気や苦難が劇的に描かれます。また英雄は、死後に各地で崇拝される対象にもなりました。神々の物語が気になる方は、世界神話事典もあわせて参考にしてください。

英雄の物語はどの作品で語られているか

英雄の物語は一つの聖典にまとまっているのではなく、複数の作品に分散して伝わっています。ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』は紀元前8世紀頃にまとめられたとされる最古級の叙事詩で、アポロニオスの『アルゴナウティカ』は紀元前3世紀、ウェルギリウスの『アエネーイス』は紀元前1世紀のローマの作品です。ほかに、劇作家エウリピデスの悲劇や、オウィディウスの『変身物語』、アポロドロス名義の神話集などが、細部の異なる異伝を伝えています。そのため、同じ英雄でも、出典によって筋書きが違うことがあります。気になる英雄がいたら、どの作品の記述なのかを意識して読むと理解しやすくなります。

同じ英雄なのに名前が違う場合がありますか?

はい。ローマ人はギリシャ神話を受け入れる際、神や英雄の名前をラテン語風に呼びました。ヘラクレスはヘルクレス、オデュッセウスはウリクセスという具合です。名前は違っても、物語の骨格はおおむね同じように伝えられています。一方、アイネイアスのようにローマ独自の文脈で重要視された英雄もいます。

英雄の物語が今日でもよく言及される理由は?

「アキレス腱」「アリアドネの糸」「トロイの木馬」のように、神話に由来する表現は今も日常の言葉や文学、映画で使われています。英雄の冒険が、勇気、知恵、傲慢、運命といった普遍的なテーマを扱っているため、時代ごとに新しく語り直されてきました。

よくある質問

ヘラクレスはなぜヘラの憎しみを受けたのですか?

ヘラクレスがゼウスと人間の女性アルクメネの間に生まれた子だったためです。夫ゼウスの不貞の子だったので、ヘラは彼を憎み、さまざまな試練を与えました。これが十二の功業にまつわる背景として語られます。

アキレス腱という言葉は実際の体の部位とどんな関係がありますか?

かかとの上の腱を指す解剖用語「アキレス腱」は、アキレウスの弱点がかかとだったという伝承に由来します。このため、体の部位だけでなく、「致命的な弱点」を意味する比喩としても広く使われます。

ヘラクレスの十二の功業には何がありますか?

ネメアのライオン、レルネのヒュドラ、ケリュネイアの鹿、エリュマントスの猪、アウゲイアスの家畜小屋、ステュムパーロスの鳥、クレタの牡牛、ディオメデスの馬、アマゾンの女王の帯、ゲリュオンの牛、ヘスペリデスの黄金のりんご、ケルベロスの捕獲です。順番は出典によって異なる場合があります。

トロイの木馬はどの作品に出てきますか?

ホメロスの『イリアス』の本編には出てこず、『オデュッセイア』で言及されるほか、ウェルギリウスの『アエネーイス』で詳しく語られます。そのため、物語の筋は、主にローマ時代の叙事詩を通じて広まりました。

ギリシャ神話の英雄とローマ神話の英雄は同じですか?

ヘラクレスなど多くはギリシャ神話に由来し、ローマ人が名前を変えて受け継ぎました。一方アイネイアスのように、ローマ建国の伝説と結びついた英雄もいます。